風呂から出た仙蔵は、癖の無い絹糸のような黒髪を丁寧に拭い、自室へと向かう。月明かりの中廊下を歩けば、湯で温められた肌が冷気に晒される。吐く息は白くて雪のようだ。
(雲が無い時の方が寒く感じるな……)
仙蔵は自室へ辿り着き、さっと戸を開けた。中へ入ると同室の文次郎が着替えを済ませて鉢巻を巻いているところだった。仙蔵はぎょっとする。
「まさかお前、こんな日でも鍛練に出かけるのか?」
文次郎は先に風呂へ入っていた。その証拠に括られた髪がまだ濡れている。
文次郎はさも当然のように言った。
「当たり前だ。祭りはもう終わったのだから、今夜も当然鍛練に行く」
「お前の頭は鉄粉が詰まっているのか?」
「何だと?!」
「そんな鉄粉頭のヤツにはやれんな」
「!」
の名前が出た途端に文次郎の動きが面白いくらいに止まる。顔が強張って眉間に皺が寄るのを見た仙蔵が、ニヤッと端整な顔を歪めた。
「そんなにわかりやすくてどうする。学園一忍者している者として失格だな」
「な……、何のことだ……」
「とぼけるなよ」
誤魔化そうとする文次郎に仙蔵が立ち塞がった。口を開こうとしない文次郎を余所に仙蔵はペラペラと話続ける。
「は文次郎と同じ会計委員会で、過酷な会計処理にもなんだかんだで良くついてきているものなぁ。大雑把に見えて根は真面目で人の気持ちを良く読む。おまけに……」
「何だ?」
「とても可愛らしい」
にっこりと微笑む仙蔵は女と見間違えるほど美しかったが、それが偽物であることを文次郎は知っている。伊達に6年間も同じ部屋ではない。
文次郎は思わず呟いていた。
「まさか仙蔵ものことを……」
「私も?私も何だと言うのだ?それは、お前にも当てはまるということなのか、文次郎?」
ハッとなって口を閉じたがもう遅い。仙蔵はにや〜っと玩具でも見る様な眼で文次郎を見ている。
「なっ何でもな―――」
「が好きなんだろう?」
「〜〜〜っ?!」
文次郎は仙蔵にズバリ指摘されて顔色を変えた。
「そんなわけないだろう!は確かにオレの後輩で良く仕事をしてくれるが……好いた惚れたなどありえん!」
「その態度こそがお前の胸の内だと思うがな」
文次郎がのことを女として見ていることなどバレバレなのだが、意地を張って隠そうとする。
「そう言うお前こそどうなんだよ、仙蔵!」
「好きだ」
「……、は?」
あまりにもキッパリと答える仙蔵に、一瞬何を言っているのかがわからず思考が停止してしまう。
「私はが好きだと言ったのだ」
のことを女として好意を寄せている、そう宣言してみせた仙蔵の顔はとても真剣なものだった。先ほどのからかうような様子は微塵も感じられない。堂々とした仙蔵の態度に文次郎は言葉を失った。
「文次郎、あまり素直じゃないと私が貰うぞ?」
文次郎は奥歯を噛む。
「何を―――」
「こんばんは〜」
張り詰めた空気の中に間の抜けた挨拶が聞こえてきた。文次郎はその場にずっこけ、仙蔵は『すごいタイミングにやって来るものだ』と苦笑した。
仙蔵が戸を開ければ、まだ制服姿のが立っていた。そして長方形の箱を両手で抱えている。大きさは一升瓶ほどというところか。
「あの、コレ―――って、ごめんなさい、もう寝るところでしたか?」
夜着姿でいる仙蔵を見ては焦った。仙蔵は文次郎へと視線を移し、再び何かを企てている嫌な笑みを浮かべた。
くるりとの方へ向き直った仙蔵は人当たりの良い顔に変わっていた。の肩を抱くとそのまま部屋の中へ連れ込む。
「え?あの、先輩?」
「いや、実は眠れなくて困っていたところだ。、私の話相手になってくれないか?」
「おい仙蔵!」
文次郎がカッと牙を剥くが、仙蔵にとってすれば効果は無い。
「何だ文次郎、お前はこれから鍛練に行くのだろう?さっさと行け」
ぎゅっと肩を抱かれているは睨み合う2人におどおどしてしまう。
しばしの睨み合いの後、文次郎は舌打ちをする。
「……今夜は止めておく」
「ほぉ、珍しいな。なぜだ?」
「オレの後輩に手を出されたら目覚めが悪いからだ」
「て……?手?!何言ってるんですか?!仙蔵先輩がそんな、あたしに手を出すわけないじゃないですかっ!!」
面白いくらいに赤くなったは文次郎の発言を否定する。
文次郎も仙蔵も思い切り否定してみせたには少々呆れた。
(私は男として意識されているんだかいないんだか……)
(コイツはこんな夜でも普段1人で男の部屋に来るのか…?!)
黙ってしまった2人に恐る恐るは箱を差し出した。
「実はコレ、学園長先生から頂いたんです。くりすますに因んだものらしいんですけれど、水みたいに揺れる感覚があるので飲み物みたいです。それでお2人と一緒に飲みたいなって……」
「とりあえず座れ」
「あ、はい」
文次郎に言われては正座すると2人も座る。箱を置くと重いらしくゴトっという音がした。
「1人で飲むよりは良いだろう。、私は付き合うぞ」
「ありがとうございます。文次郎先輩はどうしますか?」
「あ、ああ…。オレも飲む」
「じゃ、開けますね」
が箱の蓋を開け、中に手を入れて引っ張り出す。出て来たのは南蛮の文字が書かれたビンだった。一升瓶ほどの大きさがあり、ビンは見たところ酒のようである。
「ふむ…、酒のようだな」
「ああ。、そこの工具箱から錐を取ってくれ」
「はい」
は工具箱から錐を見つけて文次郎に差し出す。文次郎は錐を使ってコルクの栓を器用に抉じ開けた。ビンの口から白い煙が少し出て漂う。
「あ!白い煙が……。これは何が入っているお酒なんでしょうね」
「学園長先生から聞いていないのか?」
「はい。ただ箱を選ばされただけなんです」
「適当な方だ……。ところで、私たちのことはともかくお前は酒が飲めるのか?」
「あー…少しなら大丈夫です」
は人差し指と親指を摘まむような仕草をして見せた。どうやらあまり酒は得意ではないらしい。
「無理すんなよ」
文次郎は杯を持ち出して仙蔵とに手渡した。
「じゃあ、あたしがお酌をしますね」
が重たいビンを持ち上げた。
「では一杯頂こうか」
「どうぞどうぞ」
仙蔵の盃に酒を注いでいくとしゅわしゅわと音を立てた。泡が弾けてスパイシーな香りが昇ってくる。
「わっ?!お酒が爆ぜてます!」
「おお、これは【しゃんぱん】だな」
「しゃんぱんって何だ?」
初めて見る不思議な酒にも文次郎も興味津々である。
「しゃんぱんとは炭酸を溶かしこんだ酒のことで、爆ぜるその感触を楽しむ。前に本で読んだことがあってな」
「コレはやっぱりくりすますに飲むものなんですか?」
は文次郎に酌をしながら尋ねると仙蔵は頷いた。
「そうらしい。他にも祝いの席で出される」
「じゃあ、乾杯するぞ」
杯を掲げて3人は『乾杯』と声を合わせた。
はまず鼻を近づけて香りを楽しむことにした。日本酒にはない抜ける様なアルコールではなく、刺激的で角のある香りだと思った。
先に飲んだ2人はそれぞれ乾燥を口にする。
「確かに舌で爆ぜるが、なかなか美味い」
「そうか?オレは日本酒の方が好みだな」
「好き嫌いが分かれそうではある」
「げほっ!ごほっ!」
「「?!」」
は一口で飲み干したらしく、口の中でしゅわしゅわ爆ぜる感覚に目を白黒させた。咽るの背中を擦ってやると、は文次郎に『すみまふぇん』と謝った。
「本当に爆ぜますね……っ舌が痛いれふっ」
予想以上に刺激が有って舌を出しては涙目になった。
「には合わないようだな」
「待ってろ。今水を取って来る」
「ありがとうございます……」
「いや、その必要は無い」
立ち上がった文次郎にそう言って、の小さな顎にそっと手を伸ばした。形の良い指先が触れての顎はそっと持ち上げられた。いきなり掴まれたは『?』と目を瞬かせて舌を出したまま動かない。
仙蔵の意図に気づいて文次郎は眉を吊り上げて叫んだ。
「仙蔵!」
「仙蔵せんぱ―――んぅっ?!」
仙蔵はの唇から覗いている赤い舌と自分の舌を合わせるようにして口付けた。の視界には仙蔵の白い肌と長い漆黒の睫毛が広がっている。
「ふ…んっ……」
舌を撫でるように触れてくる仙蔵の舌。ぬるついた熱い感触には翻弄された。耳に響く水音がの羞恥を高め、仙蔵の舌を押し返そうとするが、その動きは逆に彼の舌を絡めてしまうことになる。
仙蔵がの後頭部を抱えてもっと口付けを深くしようとしたとき、文次郎がを後ろから抱きしめるようにして引き離した。
仙蔵から解放されては酸素を胸一杯に吸い込んだ。顔を赤く染め上げ、はぁはぁと息を乱している。濡れた唇からつ……っと仙蔵の唾液が混じった銀糸が伸びて切れた。その光景に益々の心は乱されて頬を熱くさせてしまう。
「大丈夫か?!」
「え……、あ……はい」
何が何だか良くわかっていないは目を白黒させている。仙蔵はクスクスと笑いながらペロリと自分の口元を妖艶に舐める。視線の先にいるは目を泳がせて恥ずかしそうに俯いた。
文次郎は挑発的な仙蔵の態度に怒りが湧き上がってくる。
「仙蔵、何しやがんだ!」
「私はの舌を治してやろうと思っただけだ。、もう痛みは無くなっただろう?」
「えっ?あ……、確かに。ありがとうございました」
は文次郎にもたれたままで舌を動かしてみる。仙蔵の言う通りで炭酸による痛みや痺れる感覚は無くなっていた。
「、呑気に礼を言ってるんじゃねぇ!」
「ご、ごめんなさい…?」
は振り向いて文次郎を見上げると、良く分からないまま謝った。
「どうして文次郎が怒る必要がある?私とがどうしようと文次郎には関係の無いことじゃないか」
そう言って仙蔵はの小さく白い手を取って甲に口付けをしようとする。途端にの頬が朱に変わるが、仙蔵から文次郎はの手を握って奪い取った。仙蔵は文次郎の行いに対して形の良い眉を顰めた。
「何をするのだ、文次郎」
「うるせぇ!はオレの後輩だ。オレにはをお前みたいな野郎から護る義務がある」
その言葉は仙蔵というより自分に言い聞かせているかのようだ。
睨み合っている2人の間ではまた困惑してしまう。
「あのう……お2人とも……?」
「委員会の先輩、ただそれだけの存在ではないか」
「だったらお前は何だって言うんだ?」
「私はが好きだ」
「?!」
「ふえっ?!」
驚いている文次郎の隙をついての腕を引き、仙蔵は自分の腕の中に収めた。ふわり香るシャボンに包まれたは、先ほどの口付けといい告白といい混乱するなというのが無理である。
の後頭部に手を差し入れて触れられるとぞくりと背筋がうずいた。
「私はが好きだと、そう言っただろう。それは私がに触れる理由になるはずだ。少なくても、ただの先輩という立場でしかないお前にとやかく言われる筋合いは無い」
「ぐ…っ」
確かに仙蔵の言うことは的を射ていた。
「そこで私とが睦んでいるところを指でも咥えて見ていると良い」
「何言って―――む?!んっは…ぁ」
また口付けられては反論することが出来ない。仙蔵の舌が絡み付き、声が喉奥へと押し込まれていく。手を仙蔵の胸に当てて押し返すが、仙蔵がいくら女のように美しくとも男には違いない。抵抗をしようとしてもの力ではどうすることも出来なかった。
「、可愛いぞ」
「あっ?!せんぱ、いっ…ひあっ……ん…」
口付けを止めて耳元で低く囁かれたと思うと、耳朶を甘く噛まれた。舌で耳をなぞり、そのまま耳穴へと押し込めばが肩を捩る。水音が鼓膜を震わせて感じたことのない湿った刺激が背筋を這い回った。
「やぁ……んっ……あ……ぁふ……っ」
仙蔵に見せつけられた文次郎は涙を浮かべているに我慢出来ず手を伸ばした。そして噛み付くように口付けをした。突然口付けをされては今度こそわけがわからなくなった。
「んー?!んっ、先輩…何で……っ」
まさか文次郎にまで口付けをされるとは思っていなかったは涙ながらに疑問をぶつけた。文次郎は仙蔵の細められた視線など気に留めることなく、両頬を包み込んだまま言った。
「すまん…。お前が……、オレも好きだ」
「文次郎先輩……んあっ!」
仙蔵に首筋を舐め上げられて思わず声が大きくなってしまった。
「文次郎良く言った。私はライバルを徹底的に潰して奪う方が好きなのでな」
「誰がお前なんかに潰されてやるかよ」
「ひゃっ!あんっ、あ……っ。文次郎先輩…、そこ……は……!」
「すまんな、……。もうお前に触れたくてしょうがないんだ」
の制服の襟を寛げると、文次郎はまだ小さい膨らみに手を当てた。そのまま中着越しに揉むと甘い痺れを感じては肩をふるりと震わせる。肌が上気して汗が滲み、それは少女というより色欲に乱れる女の姿であった。そして中着越しでも乳首が反応していることがわかる。恥ずかしくてどうしようもなくは身体を熱くさせてしまう。
柔らかな胸を文次郎が堪能している間に仙蔵は項に強く吸いついた。鬱血した肌が赤くなり痕を残していく。
「やぁっ、仙蔵せんぱ……、痕が……っ」
「見せてやれば良い。私のものだというこの証を」
その言葉に嫉妬した文次郎が中着の中へ直接手を滑り込ませてきた。
「ああっ!?もんじ……ろっ……せ……あんっ、はぅ……ふ……っう」
「仙蔵にばかりかまけてるんじゃねぇよ」
無骨な男の指先がのぷるんと柔らかい先端を捕えた。直接触れてくる文次郎の指には熱い息を乱す。親指で擦られるようにされ、もう片方の乳房は強弱をつけて揉みしだかれた。ぷくりと反応をする乳首に文次郎はさらに摘まんでみれば、が甲高い声で啼く。髪を頬に張り付かせて涙をぽろりと零して身悶えた。
「やああんっ!ダメで……す……っあっ、うぁ……んっ」
さらに指先でころころとすっかり硬くなった乳首を転がせば、面白いくらいには甘い声を漏らした。
そうこうしている内に今度は仙蔵がの太腿の内側に触れてきた。ゆっくりと怪しく撫で上げられての腰が疼く。耳まで真っ赤に染め上げたが首を動かし振り返ると、仙蔵が熱い視線を投げかけていた。頬を伝う涙を舐めると仙蔵は言った。
「、今夜はたっぷり時間があるぞ。なぁ、文次郎?」
「そうだな…。、もっとオレたちに声を聞かせてくれ」
「そんなこと―――ああっ!やぁんっ」
の可愛らしい声はその夜いつまでも部屋に響いていた。
2009.12.06 更新