正方形の箱を選んだは、貰った箱を手に6年ろ組へ向かっていた。
(これはきっと食べ物に違いないだろうなぁ)
箱からはとても甘い香りがしてくるのだ。それは果実が熟したときの匂いに似ていた。
食べ物ならば、無駄に動き回って体力を売るほどあまっている小平太と、実は甘いものが好きな長次にあげたいと思っていた。
忍たま長屋の長次と小平太の部屋に着くと、まだ灯りが点いている。は周りに迷惑にならないように気をつけて声をかけた。
「あのーですけれど、今お邪魔しても大丈夫でしょうか?」
「おーか!入れ入れ!」
小平太の陽気な返事が聞こえ、は部屋の戸を開けた。長次が立ち上がってのために座布団を出してくれた。
「あ、ありがとうございます」
長次の気遣いに礼を言いながら小平太の正面に座った。
「いったい何だ、その箱は?」
「さっき学園長先生から頂いたんです。今日の実行委員を良くやってくれたからって」
「あははは、良かったなぁ」
「しかし……あれは、学園長先生がやらせたことだ……」
「ですよね〜。あたしもそれは思いました」
が笑うと長次は頷く。
「で、どうしてその箱を持ってきたんだ?」
「まだ開けていないんですけれど、甘い匂いがしたんです。だから食べ物ならお2人と一緒に食べたいと思って持ってきました」
「お〜そうかそうか。ならばさっそく開けてみよう」
床に箱を置いてはそっと蓋を開ける。開けた途端にふわりと甘ったるい砂糖の香りが鼻腔を通って肺にめいいっぱい入り込んできた。
箱に入っていたのは雪のように白いクリームの化粧が施されたスポンジケーキ―――ボーロである。瑞々しい艶のある赤い苺がボーロの上に飾られている。白いクリームに鮮やかな色を添えていた。甘酸っぱい苺の匂いにはうっとりとする。
「わぁ!ボーロですね。すごく美味しそう!」
「だな!長次が作るボーロも上手いけれど、このボーロも美味そうだ!」
「これは……くりすますのボーロだ」
「くりすますの?」
長次はケーキの上を指差した。チョコレートの板には南蛮の文字が刻まれている。
「くりすますの……夜は、祝い事だ……」
「じゃあ、このチョコにはそういうお祝いの言葉が描かれているのかも知れませんね。長次先輩は食べたことあるんですか?」
の問いかけに首を横に振った。長次は以前からボーロを作っていることもあり、この珍しいボーロに興味津々のようである。
「さっそく食べようぜ!」
「そうですね。あ……、でもこのボーロを切り分けるものがありません」
「これを使え!!」
小平太は壁に立て掛けてあった刀を掴み、に差し出した。
「うわ〜〜……これって使っても良いんですか……?」
「余っている刀だ。さっき綺麗に磨いたばかりで一度も使っていない」
「……まさか刀でボーロを切る日が来るとは思いませんでした」
ずしりと重い刀を鞘から抜くと、は両手で柄を握る。しかしの腕力ではふらついてしまって均等に切ることが出来そうに無い。すると長次が後ろからそっとの小さな手に自分の傷だらけの手を重ねた。途端に刀がふらつかない様になり、しっかりと狙いを定めることが出来る。
「あ、長次先輩ありがとうございます」
「そのまま切れ」
「はい」
長次と一緒にがボーロに刀を入れていく。
「何だかその光景は妙だな……」
「え?そうですか?」
小平太も何が妙なのかわかっていないようで首を傾げている。
円を均等に3等分することを考えながら手を動かし、どうにか均等にすることが出来た。鈍く光る歯には柔らかい生クリームがたっぷりへばりついている。それを懐紙で拭うと鞘に仕舞う。
「それじゃあ、いただきます!!」
「あ?!でもお皿が―――」
『ありません』と言い終える前に小平太は豪快に素手で掴むとボーロにかぶりついた。それを見てが苦笑し、長次はいつものことらしく何も言わなかった。
「」
「はい?」
長次はの名前を呼ぶと、自分も小平太と同じように手で直接ボーロを掴み口元へと運んだ。
「長次先輩まで……?!」
「今日は大目に見ろ」
「はぁい。それではあたしもこのまま失礼しますね」
呆れた様子だったもいざ素手でケーキにかぶりつくと、普段とは違う行儀の悪い食べ方に新鮮さを感じているようだ。悪戯っ子のように笑う。
「このクリームはとても舌触りが滑らかで甘いですね」
「……今度作るとき、参考にする」
長次はクリームやスポンジを分析するように口を動かした。一方の小平太はバクバクと躾のされていない動物のように食べ続けている。口や手は生クリームで汚れ、小さな子供のようである。
「お〜、これは美味いなぁ!また食べてみたいぞ」
「そうですね……って小平太先輩、もう食べ終っちゃったんですか?!」
「おう!これくらい朝飯前だ」
いつの間にか小平太はボーロを食べ終えて自分の掌や指を舐めている。や長次はじっくりと味わっていることもあり、まだ半分ほど残っている。
「すごいですね。夕食もくりすます風で豪華だったし量もあんなにあったのに、あれを食べてからこのボーロがお腹に入ってしまうんですから」
「小平太はいつもこうだ……」
「あははは!は食べるのが遅いな」
「いえ、このボーロは美味しいんですけれど、夕食を食べた後なのでお腹が空いていないんです」
標準的な女の胃袋しか持ち合わせていないは、この量のボーロを食べきるのは困難だった。
「……、無理して食べる必要はない」
長次がを気遣う。は『うーん』とボーロと睨めっこをする。
「だけど、せっかく珍しいボーロを頂いたわけですし、残したらもったいないですよね……」
「ならばわたしに任せろ」
「えっ?」
小平太はベタベタになった手でのボーロが乗っている手首を掴み、自分の口元へと引き寄せた。
「……?!」
「小平太先輩?!」
2人が驚く中、小平太はの掌に乗った残り半分のボーロに喰らいついた。まるで腹ペコの犬のように見える食べっぷりである。この様子にはも唖然としてしまう。長次は溜め息を1つ零した。
「や……、ちょっと小平太先輩!あたしの手を使って食べないでくださいよっ!」
「別に良いだろ。皿を取って来るのも面倒だしな」
「そういう問題じゃありません!」
騒ぐを無視して結局小平太はぺろりとボーロを平らげてしまった。の掌にはクリームやスポンジの欠片などの残骸だけが残された。
小平太から解放されるとホッとしたのも束の間、掌に生温い感触が神経に伝えてきた。
「ひ、やあああっ?!?!何をしているんですかー?!」
「何って舐めているんだぞ。残したらもったいないし」
「だからってここまでしないでくださいいいい!!」
ぬるぬると熱い小平太の舌がの掌を隅々まで這い回る。自分の意思ではない動きには背筋が震えてしまう。
「小平太……」
長次も流石に目に余ると思ったらしく、小平太を咎めるように名前を呼んだ。しかし、その程度で止めるような暴君ではない。クリームまみれの指を咥えて甘噛みすれば、は息を詰めた。
「んっ……、小平太先輩、もう残っていないんですから離してくださいっ!」
小平太のおかげで唾液に濡れたの手には、もうボーロの欠片は残っていない。掌から顔を上げた小平太の目に飛び込んできたのは、の羞恥に耐える潤んだ赤い瞳。そして愛らしく染まる赤い頬だった。
ガン!と金槌で殴られたような衝撃が走り、小平太の頭の中が一瞬真っ白になって固まる。そんな小平太の様子には首を傾げた。
長次はの色っぽい女の表情に気づいて目をさっと逸らすが、小平太の次の行動に視線を戻さざる負えない。
「ひゃっ?!先輩、何するんですか?!んあっ!」
小平太はの手を掴んだまま手首から肘をべろっと舐め上げたのだ。突然の刺激に耐えられず、は瞳をぎゅっと瞑って声を上げた。そのまま小平太はの白い腕に吸いついて赤い痕を残す。ちりっとした痛みにが『んっ』とくぐもった声を漏らした。
「、気持ち良いか?」
「えっ?何が―――痛っ」
またちゅっと吸いつかれては顔を歪める。
は自分が危機的状態にあると気づいて長次に助けを求めた。
「長次先輩……助けてくださいっ!」
「!?」
呆然との様子を見ていた長次はようやく我に返った。少々恥ずかしそうに頬を赤らめると、小平太からを引き離した。
「止めろ、小平太……。が嫌がっている……」
「え〜何だよ長次!長次だって感じてるに見惚れてたじゃないか」
「か、かんじ……???」
「そんなことは―――」
「うひゃぁ?!」
の声によって長次のぼそぼそ声はかき消された。驚いて腕の中にいるを見てぎょっとする。の胸や腹の上には白い塊―――ボーロがべったりと張り付いていたのだ。
一瞬何が起きたのか理解できなかった長次。しかし、自分の手の上にあったはずのボーロが無くなっている事から、の上にそれが落ちたのだと理解した。
服の上からとはいえ冷たい感触に耐えかねて嫌々と首を振った。
「あーもう上着の中に苺が入っちゃったみたいです」
「ま、待て……!」
長次が止めるのも聞かずにはその場で上着を脱いだ。袖無しの黒い中着姿になったの白い腕や首回りが空気に晒される。胸元には僅かにクリームがついており、その甘い香りに長次は引き寄せられてしまう。
「寒い〜!あ、苺が中着の中に入って―――ちょ、長次先輩?!」
が驚くのも無理は無い。長次はの胸元に唇を押し当て、服の上から舌を這わせたのだ。
「んっ、長次せんぱ……っ」
濡れた感触が肌に張り付いて鳥肌が立った。長次の舌はの胸を濡らしていき、クリームを舐め取っていく。甘い味との上擦った声に興奮する自分がいるのを感じる。
「や、ぁ……あんっ、ふ……!」
「苺は……これか……?」
「あぁん?!」
中着の上からでもわかるくらいぷくりと隆起した乳首を捕え、長次はそのまま唇を擦り合わせた。布にも擦られていく感覚には甲高く啼いた。甘い痺れが胸に走り、の頬も耳も首も赤く染めていく。
「や……っ、それはっ苺じゃ……はぅっ?!」
唇に挟まれた突起を長次はそのまま音を立てて吸い上げた。は喉をひくりと上下させてじわじわと涙が瞳いっぱいになる。長次はのあられも姿に、熱い息を吐いて胸に吸いつく行為に没頭した。
「あっ……やぁん、先輩……だ、めっ……むぐ?!」
は長次を引き離そうと屈強な肩に触れたとき、がしっと両頬を大きな手で挟まれた。頬を潰されたせいで変な声が出てしまう。
「長次ばかりずるいぞっ!わたしもをもっと味わいたい!!」
「味わうってそんな……っ、ん!」
強制的に顔を横に向けられて、小平太に口付けられた。口付けと呼ぶには違和感があるほど噛み付くような勢いで、の口腔へ舌を無遠慮に侵入させる。
「こへ、んくっ……ふ!う……むぅ……っ」
文句を言いたくても口を塞がれてしまえばどうすることも出来ない。
「は甘い味がするな、ん……っ美味いぞ」
「そ、れは……っんんっ、ボー……ロの……あぁんっ!」
舌を絡められて息苦しさを覚える頃、再び長次が動き出した。中着の上から胸を掴まれて、新たな刺激に心音が高鳴る。きっとその音は長次にも伝わっているのだろう。の胸は小さめだが、男には無い柔らかさに長次は興奮を覚える。
「小平太…加減をしてやれ。が、苦しそうだ……」
「ん?ああ、わかったわかった」
「ぷはッ!!わ……わかったって……ひゃあああ?!」
小平太はの唇をちゅくっと音を立てて解放すると、間を開けずに首筋へをべろりと舐め上げた。びくんと肩が跳ね上がり、小平太はそのまま甘噛みし出す。八重歯が薄い皮膚に当たって痛みを感じる。そして小平太の熱さも。
「いった……、んぁッ、はぁんっ……もう、あっ……かんべ……んっ!ぁんっ、してくださ……っ!!」
へにゃへにゃとが力無く倒れると、背中を小平太に支えられた。はぁはぁと頬を紅葉のように赤らめたを見降ろし、小平太は太陽な笑顔での申し出を却下した。
「ダメだぞ。わたしも長次もお前の事が大好きだからな!」
「へ?………うええぇええぇえ?!そ、んなの…、冗談ですよねっ?!」
「冗談じゃない……。私も小平太も……、を好いている……ぞ」
切なそうに切れ長の瞳を細める長次は、ぎゅっとの手を握った。長次も興奮して手が燃えるように熱いことに気づくと、は音が聞こえるくらい身体中を火照らせた。
小平太はちゅっと可愛くの赤くなった額に口付けを落とすと、『そういうことだから』と言って再び手を動かしたのである。
(そういうことって、どういうこと〜〜〜っ?!?!?)
その後の3人がどうなったのかは3人のみぞ知る。
2009.12.06 更新