とりあえず片付ける。の場合


床を見れば顔を真っ赤に染めて倒れている3人。今意識がハッキリとしているのはと雷蔵だけだ。
は溜め息を吐いて雷蔵に視線を向けた。雷蔵も同じように苦笑してしまっている。

「……仕方ない、片付けようか」
「うん、そうだね」
「明日絶対に3人には何か奢ってもらおうね!」
「ははは、ちゃんらしいね」

と雷蔵は少し雑談をしながら宴会の後片付けをした。転がっている空の徳利とお猪口を重ねて部屋の隅に寄せ、同じように寝っ転がっている3人をそれぞれの部屋へ送り届けることにした。意識の無い人間を運ぶのは骨が折れたが、どうにか長屋で寝ている生徒たちを起こさずに運ぶことができた。
最後に運んだのは竹谷だった。竹谷は上半身裸の身体を真っ赤に染めてぐうすかいびきをかいて眠っている。雷蔵との肩に担がれている間も、全く目を覚ます気配がない。

「ったく……、三郎は目を覚まして一応お礼言ってくれったっていうのに」
「寝つきが良いんだね、きっと」

雷蔵が竹谷を支えている間、は部屋の押し入れから布団を引っ張り出す。そしてそこへ竹谷をそっと起こさないように寝かせた。
竹谷は眠っていると普段以上に幼い表情になる。それを見ては目を細めて優しい笑みを浮かべた。それは隣で見ている雷蔵の胸をドキッと跳ねさせる。

「はっちゃんは昔から寝ているとき変な寝言を言ってね、面白かったなぁ」

はボサボサになった竹谷の髪を撫でつけると、昔を思い出しているようにクスクスと笑う。

(そうだ……、ちゃんとハチは幼馴染みなんだっけ)

と竹谷は同じ郷里出身で、忍術学園に入学したときも一緒にやって来た。宴会をした4人の忍たまの中で、誰よりも竹谷と一緒に同じ時を過ごしている。それは同時にお互いを良く知っているということにもなる。

(ハチしか知らないちゃんの表情が……たくさんあるんだ)

くのたまたちは恋愛話がとても好きだ。良くは『竹谷と付き合ってるの?って良く聞かれて困る』と言っているのだが、特に嫌がっている様子ではない。
一応竹谷との関係は否定しているらしいが、ただ単に照れているだけなのではと思う。雷蔵の目から見ても、と竹谷は仲が良いのは確かである。

ちゃんはハチのこと……やっぱり好きなのかな?ハチだってきっとちゃんのことは大切に想っているはずだし……。だけど……?でも……!あの……!?)
「雷蔵?」
「?!」

ハッとなって隣を見ると、がきょとんとして自分を見ているではないか。

「どうかした?さっきからうんうん唸ってるけど…」
「え?いやぁ、何でも無いよあはは」
「???」

まさかのことを想って迷っているだなんて口に出せるはずがなく、雷蔵はの腕をぐいぐい引っ張って竹谷の部屋を後にした。珍しく強引な雷蔵には首を傾げたが、そのまま廊下を歩いた。
それから部屋の隅に寄せておいた徳利やお猪口を片付けるため、2人は再び空き部屋に戻ってきた。先ほどまでは特に気付かなかったが、部屋は酒の匂いで満ちている。恐らく一度部屋の外へ出たからだろう。

「空の徳利はコレで全部かな。ちゃん、そっちは―――」

『どう?』と聞こうと振り返ったとき、雷蔵の視界にがフラッと傾くのが入った。そしてゴトッという陶器が床に落ちる音が耳を打つ。

ちゃん?!」

雷蔵は腕を伸ばし、そのまま倒れそうになったの身体を間一髪で支えた。2人で一緒にしゃがみ込んでの表情を窺う。は額に薄っすらと汗を掻いており、黒髪が頬に張り付いていた。
重そうな瞼では熱い吐息を吐いた。

「は……、ぁ……。雷蔵、ごめん……ね」
ちゃん、どうしたの!?どこか痛い?気分が悪いとか……」
「違う……から。それ……」
「え?」

雷蔵は膝の上でぐったりとしているが指さす方を見た。そこには先ほど音を立てた徳利が中身を零して転がっている。畳に僅かな染みを作っているそれは酒ではなく、独特の甘い香りが漂ってきた。その香りに雷蔵は覚えがあった。

「もしかして、甘酒?」
「お酒残ってるのかと思って……飲んだの……」

どうやらはこの充満した酒の臭いのせいで、甘酒であることに気付かなかったらしい。そのままいつものようにゴクゴクと飲んでしまったようだ。

「あたし、甘酒ダメなんだよね」
「え?ちゃん……、もしかして酔ってる?」

は雷蔵に返事をする代わりに苦笑してみせた。あれだけの酒を飲んでも酔わないのに、甘酒を飲んで酔っ払う自分を恥ずかしく思っているようだった。
ただ酔っているだけとわかって雷蔵は安心した。しかし、はたと今の状態を冷静に思い起こして緊張が走った。
紅潮した顔に潤んだ瞳で自分を見上げるが、今雷蔵の腕に抱かれて膝の上に横向きで座っている。投げだされた華奢な素足は、夜着が捲れ上がっているせいで太腿まで丸見えだ。蝋燭の薄灯りの中でも、その肌の白さは浮かび上がっている。

(うわああぁぁああぁッ?!)

見てはいけない、と雷蔵は視線をバッと勢い良く外した。けれども、一度見てしまったの赤い頬や華奢な白い足が繰り返し頭に浮かんできてしまう。雷蔵は自分の顔に熱が集まるのを感じた。
とはここまで接近したことが無く、雷蔵は腕に感じるの身体の柔らかさや体温に頭が沸騰してしまいそうだった。

(ダ、ダメだ……!ちゃんは……ハチのことが好きかも知れないのに……っ!!)

酔いが回って身体に自由が利かないが腕の中にいる。いつも笑顔が愛くるしい元気なの異性らしい姿に、雷蔵の心臓は速まるばかり。
このままだとに手を出してしまうかもしれない。は幼馴染みである竹谷のことを想っているかもしれないというのに。

「ら、いぞ……う」

苦しそうに、けれども切ない表情では雷蔵を見つめている。艶やかな桃色の唇の端からつ……っと飲みきれなかった甘酒が一筋零れた。

「―――っ!」

大きく心臓が跳ね、音も無く、雷蔵は誘われるように伝う甘酒に舌を伸ばした。顎からつーっと舐め上げ、そのままの唇へ自分のそれを重ねた。は突然の雷蔵の行為に重そうな瞼を見開いた。

「〜〜ッ?!」
「ん……っ」

に押し当てた唇は想像以上に柔らかくて熱い。そして優しい甘い匂いが鼻腔を擽る。酒に酔っていないはずにも関わらず、じわっと胸に温かさが広がっていくのがわかる。
最初はただ唇の表面に押し付けるだけだったが、顔を真っ赤にして混乱しているが雷蔵の名前を呼ぼうとしたときに舌をごく自然な動きで侵入させた。生暖かい舌が口腔を這い、ぎこちなくもの舌を追いかけて絡めた。口腔は燃えるように熱く、その熱が移ったのか雷蔵の額から首筋に汗が伝った。
くちゅっという唾液が混ざり合う音が耳に響き、は羞恥でぎゅっと瞳を閉じる。閉じた動作に合わせて潤んだ瞳から涙が零れ落ちた。
雷蔵はに受け入れてもらいたくて、舌裏や歯茎を丁寧に愛撫していった。その度に肩を震わせて雷蔵にしがみ付くが愛しい。
どれくらいの唇を味わっていただろうか。雷蔵がやっとそれを離したとき、の呼吸は酷く乱れていた。とろんとした双眸が雷蔵を熱っぽく見つめている。

(まずい……)

ここで止めなければ、引き返せなくなってしまう。本人の意思がハッキリとしていない状況だというのに、に触れたいという欲求だけが先走っていく。自分の中に強い独占欲があるとは思っていなかった。
雷蔵は滾る熱を抑え込み、身を引こうとしての肩を離した。すると、が不安そうな顔になって再び闇色の目に涙を溜めた。

「や……っ!らいぞう……」
ちゃん……」

抑え込もうとうしているのに、雷蔵の胸は再び熱が集中してくる。
は酔いが回って感情を上手くコントロールできないのだ。だからその不安を雷蔵に知って欲しくて名前を呼んでいる。雷蔵自身、それはわかっているはずだ。

(本当に……ズルいね、僕は……)

雷蔵はの纏め上げている髪に触れ、解いた。重力に沿って肩を滑り落ちる艶やかな黒髪がの背中に広がり、シャボンの香りがふんわりと拡がった。

(この綺麗な髪も、全て僕の物にしてしまいたい)

の感じている不安を取り除くかのようにゆっくりと頭から背中を撫でると、は目尻から熱を零す。それを雷蔵の骨ばった指先が拭い、再びに口付けた。啄ばむ様な口付けから、雷蔵は再び熱い舌を潜らせる。

「ふっ……んん……っ!ぁふ……っ!」

今度は先ほどとは違って激しく舌を動かして口内を荒らす。先ほどよりもの熱が上がっているような気がして、雷蔵は強く舌を絡めた。2人の唾液が行き来する音が頭に響き、どんどん大きくなっていく。
ちゅっちゅっと途切れ途切れに聞こえるかと思えば、くちゃっと舌を掻き回す音までハッキリと聞こえ、の耳は燃えるように真っ赤になってしまった。

「はぅ……っん!はぁっ……やっ、んぅ……!」

足をばたつかせて息苦しさを訴える。唇を離すと雷蔵との間に銀色の糸が紡がれた。

「はぁ……、はぁ……っ」

苦しそうに息を吐くに申し訳ないと思いつつも、雷蔵は手を動かしていく。の背中を支えている腕に力を込めて引き寄せると、の額が雷蔵の胸に押し当てられた。
雷蔵の心臓が強く脈打っている音を聞いて安心したのか、はぎゅっと雷蔵の背中に腕を回して抱きついた。抱きついたの細腕は震えており、今自分が何をされているのかがわかっていないようだった。

「ごめんね……」

雷蔵はに謝り、汗ばんだ白い額に口付けを落とす。を支えていない方の手を空気に晒された太腿に這わせた。

「ひゃッ!?」

は甲高い声で啼くと、雷蔵に必死にしがみ付く。雷蔵は自分の胸に額を押し付けているの反応に愛しさと罪悪感を覚えた
竹谷がに与えた丹前が上半身を護っている。そこには触れることが許されない気がしてならない。
夜着から伸びる白い肌は吸いつくように弾力がある。自分には無いそれを確かめるように触れていけば、は唇から熱い息を吐いた。

「ぁ……っ、あ、やっ……ぅあ……」

は雷蔵から与えられる刺激に耐えることができず、甘い声を次々に零した。
太股の内側を撫で上げ、少し力を込めて握ると柔肌に指が埋まる。初めて触れる柔らかさに雷蔵は自分を見失ってしまいそうになった。
ぞくぞくする感覚には唇を噛み締めた。

「ん……うぅ……っ、あぁんッ?!」
「我慢しないで……、もっと僕に可愛い声聞かせて」
「あっ!ひゃん……、らいぞ……うっ、ダメ……!!んぁっ」

声を押し殺そうとするの頬に唇を寄せた。そしてぺろりと舐め上げて涙を拭い、真っ赤に染まった可愛らしい耳朶を食んだ。耳の裏まで縁をなぞりながら舐め上げると、我慢できずには快感に喉を震わせる。耳穴へ唐突に舌を捻じ込ませれば、大きく肩を揺らした。

「ぁあっ!あんっ……ふ……んんッ」

耳穴に水音が満ち、の脳は溶けてしまいそうなくらい熱を持つ。雷蔵は耳を攻めている間も太腿に触れている手を動かし続けた。汗がじわりと浮かぶ肌は薄灯りの中でさらに白く見えた。
ここで雷蔵はふと思う。
熱に浮かされて自分の腕の中で乱れるは、本当に今自分だけの表情をしているのだろうか?
もしかしたら既に誰かにこの肌理細やかな肌を晒したのかもしれない。
それは彼女 の幼馴染みの竹谷かもしれないし、自分の親友の三郎かもしれない。久々知だって同じ委員会に所属しているのだから、仲の良さを考えるとありえない話じゃない。
なぜなら―――



ちゃんは、僕のものじゃない)



「ふあッ?!」

の身体が浮き、畳に押しつけられて声を上げた。人の体温ではなく畳の冷たさに驚いたのだろう。雷蔵は力の入らないの投げ出されて中途半端に開いた足をぐっと広げた。太腿だけでなく麻布までが見えてしまい、益々羞恥心が高まったが震える。

「らい……ぞ……っ!は、恥ずかしいよ……っ」
「可愛い……」

雷蔵は細い膝裏を掴んで片足を上げると、太腿に口付けた。その瞬間ビクンとの腰が跳ねる。

「やぁっ?!ら、いっ、ぞ……ふあ!んう……っはぁん!」

強めにそこへ吸いつけば、赤い痕が白い肌に浮きあがってくる。自分の所有物という印を何度も刻印する。ちゅぅっと音を立てて吸い上げると、その度にはガクガクと腰を震わせて甘い声で啼いた。が自分のものではないという不安を消し去りたいという気持ちをそこに表すかのように、雷蔵は口付けを止めない。
耳を打つの可愛い声で雷蔵はそのまま下へ下へと舌を滑らせ、太股の付け根をべろりと舐めて吸いついた。

「んッ!痛っ……う……んぁ……らいぞう……っ」
ちゃん……っ」

蒸気した頬とぽってりとした桃色の唇。その唇が、何度も舌足らずに自分の名前を呼んでいる。
涙の膜が張った瞳に上目遣いに見つめられている。堪らず雷蔵はの麻布に隠された秘部に手を伸ばした。

「も……、ねむ……いぃ…………すぅ……」
「え……?あれ?、ちゃん……?」

はついに力尽きたらしく、ぱったりと手足を倒した。そして潤んだ瞳はしっかりと閉じられ、完全に夢へと落ちてしまったらしい。すぅすぅと寝息を立てて眠るに雷蔵は目を丸くしてしまう。

「この状況で眠れるんだね……キミは……」

甘い情事に発展する最中だというのに、は年齢以上に幼い表情を晒して眠ってしまった。彼女があまりにも無防備で、逆に雷蔵の気持ちが落ち着いていく。そして思わず笑ってしまった。
雷蔵は乱れたの夜着を丁寧に直すと、を起こさないように気遣いながら抱き上げた。このままの部屋へ連れて行った方が良い。また何かあるといけないから。
サラッと黒髪が垂れ、雷蔵の腕を擽る。
穏やかな顔で眠るの顔を覗きこみながら雷蔵は思う。

(とても卑怯なことをキミにしてしまうところだった)

雷蔵の心の声が聞こえたのか、はふにゃっと微笑みを浮かべた。

「らい、ぞ……すき」
「?!」

不意打ちに雷蔵は大きな声を出すところで喉奥に押し込んだ。眉をハノ字にし、呑気に笑いながら眠るを凝視してしまう。

「全く……ふふ。ありがとう、僕もちゃんが好きだよ」

『次は起きているときに言って欲しいな』と呟いての額に優しく口付けた。
そして、今度は何も恐れずに自分の気持ちを伝えることを心に決めたのである。


2009.04.13 更新