
真夜中。誰もが寝静まる頃、2人の怒りは納まることがない。離れで眠っているはずのが、震えながら目を覚ましてしまうほどに。
ガシャンと音を立てて食器が割れる音がした。これで何度目だろうか。無機質な冷たい音が耳に木霊する。
むくりと起き上がり、小さな蝋燭の灯りを頼りに廊下を歩いた。徐々に近づいてくる赤い光りが、一筋襖から伸びている。そして、同時に耳障りな声が大きくなってくる。ヒステリックな甲高い声と、低くて爆発する声だ。
が襖の隙間に視線を送れば、手が震える。足がふらつく。耳鳴りがする。
「また仕事だなんて、嘘を言って……!あの女のところに行くんでしょう?!」
「何を言っているんだ!!お前の方こそ、いつもどこへ出かけている?!を神社に押し付けて、誰に会っているんだ?!」
またガシャンと何かが割れる音が響き、は息を飲んだ。
涙声になる母親が、父親に腕を掴まれている。握られたところは真っ白に変色していたが、父親は握りしめる力を緩めようとしない。
「……っ!あなたには関係ないじゃないッ!!」
「お前……!?何だその物言いは!!」
「きゃあッ?!」
重い音がしたかと思うと、ドスンという小さな地響きが起きた。母親が父親に殴られて倒れたのだ。
は大きく瞳を開いて、襖の向こうを凝視する。
倒れて肩を震わせている母親と、息を荒げて拳を握っている父親。その2人の小指から伸びている、ぐちゃぐちゃになった赤い糸が怪しく光る。
赤い糸は2人を繋いでいない。全く別の方向へと伸び、外へと続いている。
手が震える。
足がふらつく。
耳鳴りがする。
耳鳴りが、する。
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