撃退4 たろじろ&源氏兄弟

<太郎太刀Ver.>

今日は気持ちの良い秋晴れで、こんな時は読書がしたくなる。私は審神者として働きっぱなしの毎日を送っていたが、刀剣達がそんな私に自由時間を作ってくれた。現世に読みたい本があったので、今日は公園のベンチで読書をしている。

「そこのお姉さん、何読んでるの?」
「え?」

突然声を掛けられた。私は驚いて顔を上げた。そこには1人の背の高い男の人が立っていた。背の高さは多分180センチくらいだろうか。何だかニヤニヤしていて気持ちが悪い。

「お姉さん、1人?本が好きなの?」
「は、はぁ……。好きですけれど」
「お姉さんは背の高い男はタイプ?」
「へ?何ですか、突然」

何の脈絡も無く好みのタイプを聞かれて、私はポカンとしてしまった。何……?もしかしてナンパだろうか?怪しんでいる私に、男の人は絡んでくる。

「俺みたいに背が高くてスタイルの良い男ってどうよ?良いと思わない?並んで歩きたいとか思わない?」
「別に思いません。私、背の高い人嫌いなんで」

これは嘘だ。でも、ナンパがウザ過ぎてついこう言ってしまう。

「またまた〜、そんな事言っちゃって。女の子は皆背が高い男が好きっしょ。こんな俺とデート出来るなんて、すげぇラッキーじゃん」
「はぁ?何でデート?私、背の高い人とか怖いだけですし、嫌いです。全然興味ありませんから。ほっといてください」

背が高くても、スタイルが良くても、あの人じゃないと、意味が無い。

「ほら、俺とデートしようぜ」
「もう!いい加減に――」
「主」
「うおっ?!何だコイツ?!」
「あ、太郎さん」

ナンパ男よりも頭1つ分以上大きな太郎さんがいつの間にか立っていた。ナンパ男は自分よりもずっと背の高い相手に驚いたのか、あっという間に走り去った。私は立ち上がって太郎さんに駆け寄った。

「太郎さん、良いところに」
「迎えに来たのですが、お邪魔でしたか?」
「そんな事ありませんよ!むしろ助かりました。ありがとうございます」
「良くわかりませんが、役に立てて何よりです」

太郎さんはどうやら私がナンパされた事には気づいていなかったみたい。
太郎さんは真剣な顔になった。

「どうしたんですか?」
「先程言っていた事は本当ですか?」
「?」
「背の高い男は嫌いだと。背の高い男は怖いと」
「聞いていたんですね……」

ナンパ男を遠ざける為の嘘だったのだが、太郎さんはとても気にしているらしい。慌てて私は首を横に振った。

「太郎さん、さっきのは嘘です」
「本当ですか?」
「本当です。ナンパがしつこかったからついた嘘です。背が高くても低くても関係ありません。怖くもないです。私は背が高い太郎さんが好きです」
「……そうですか。それは何より嬉しいです。あなたに怖がられてしまう事が、私にとっては1番辛い事ですから」

そう言って、太郎さんは大きな大きな手を差し出してくれた。私は笑って太郎さんの手を取る。すると、太郎さんが優しく囁いてくれた。

「私もあなたが好きです。何よりも大切です」
「太郎さん……。ありがとう!」
「主、今度は私も一緒に現世へ行きます。あなたと見て回る現世は、とても楽しいでしょうからね」
「わかりました。約束ですよ」
「はい」

ナンパ男のおかげで、太郎さんとのデートの約束が出来てしまった。今から楽しみ過ぎて、今夜は眠れそうにない。















<次郎太刀Ver.>

今日は次郎ちゃんとデートの日。本当に楽しみにしていた。恋人同士の雰囲気を出したくて、現世のデパートで待ち合わせをしている。ちなみにデパコスを一緒に色々見るつもりだ。
1人でラウンジに座っていると、前から見知らぬ男の人が来た。そして、他に席が空いているというのに、何故か私の隣に座ってきた。この時点で嫌な予感がする。

「そこのカワイコちゃん!何してんの?暇そうだねー」

予感的中。

「な、何か用ですか……?」
「暇してるなら、俺と一緒に出掛けようぜ。絶対に楽しいからさー」
「暇してません。私、連れを待っているんです」
「へぇ!どんな子?」
「どんな子って……、すごく綺麗な人です」

そう、次郎ちゃんはすごく綺麗な刀だ。私には勿体ないくらいに。
ナンパ男はニヤッと笑って言った。

「だったらその子も誘って一緒に遊ぼうぜ!俺、綺麗な子は大歓迎!」
「何言ってるんですか!勝手な事言わないでください。あなたとは遊びません」
「もしかして照れちゃってる?そういうところも可愛いね。連れの女の子と一緒に可愛がってあげるよ」

このままだと次郎ちゃんまで巻き込まれる事になる。何とかしようと考えていたら、明るい声が響いた。デート用に気合を入れたメイクをしてきた次郎ちゃんだった。

「主〜、待たせちゃってごめんね!いつもよりも完璧に化粧したくて――って、誰よ?アンタ」
「うわ……マジで綺麗なお姉様!俺の好みのタイプじゃんよ。ラッキー!――って、何かデカくね?!声低!!」
「当たり前でしょー、アタシ男士なんだから」
「はぁ?!何だ、カマ野郎かよ。イカれてんな。でけー男のくせにそんななりしてて、キモっ!」
「ちょっと、あなたねぇ!」

次郎ちゃんを侮辱する言葉に私はカッと頭に血が上った。でも、次郎ちゃんはニコッと笑って私を制した。

「良いのよ、主。自分の価値観しか信じない男なんでしょ。さ、こんな奴はほっといて、デートに行きましょ」
「おい、俺の事無視してんなよ!つか、今デートって言ったのか?マジかよ。こんな軟弱カマ野郎と付き合ってんの?アンタも頭おかしいのな。あははは!」
おい
「ひ……?!」

ひと際低い声で次郎ちゃんがナンパ男の目の前までカツカツとヒールを鳴らしながら近づいた。ナンパ男よりもずっと背の高い次郎ちゃんの仁王立ちは、かなり迫力がある。

「アタシの事は何言っても良いけど、主をバカにする奴は容赦しないよ。アタシが5つ数える内にとっとと消えな。言う事聞けないなら、二度と女を口説けない顔にするよ」
「ひ、ひえー!!お助けー!!」

ナンパ男は震えながら逃げ出した。私の方へ振り返った次郎ちゃんは、いつもの綺麗で明るい次郎ちゃんだった。

「ごめんよ主。嫌な目に遭わせちゃったね」
「ううん、平気。次郎ちゃん、すごくカッコ良かった!」
「うふふ、ありがと。それじゃ、気を取り直して新作コスメを見に行くよー!」

また1つ次郎ちゃんの素敵なところが見られた日だった。
















<髭切Ver.>

私の趣味は映画観賞だ。激務の審神者家業をしながら映画のDVDを観る。それが至福の時。でも、たまには映画館で観たいと思い、久しぶりに現世にやって来た。
観てきた映画は、今現世で話題のファンタジー系。悪い魔法使いに攫われたお姫様を助ける為、隣国の王子様が冒険の旅に出るという王道ストーリー。面白いと話題になっているだけあって、壮大なものに仕上がっていた。特に良かったのが、王子様とお姫様が再会を果たしてキスするシーンだ。最高にロマンチックなシーンで、それはそれは感動した。
そんな感動の余韻に浸っている最中に、私は今ナンパをされている。

「そこの彼女、映画観てきたんだ?どう?俺と映画の感想を語り合おうぜ!」
「……遠慮します」
「何々〜?もしかして恥ずかしがってる?初心なところも良いね〜。慣れてない感じが最高に可愛いよ」
「あの、構わないでください」

頭の悪い褒め言葉に、私の心はスンと静まり返った。最高に面白い映画を観てきたのに、このナンパ男のせいで気分は台無しだ。早く帰ろうと思って踵を返すと、男がまだ絡んでくる。

「無視しないでよ〜。良いじゃん、ちょっとくらい。俺と一緒に語り合っちゃおうぜ!」
「お断りします。私もう帰らないといけないので」
「はぁ?俺が誘ってやってんのに、調子に乗ってるんじゃねぇぞコラ」
「……っ」

突然声色が変わり、私は恐怖を感じた。周りの人達も異変に気付いているのに、私の事を見て見ぬ振りをしている。絶望で足が竦む。それを良い事に男が距離を詰めてきた。

「お前は黙って俺の言う事を聞いていればいいんだよ。ほら、来いよ!」
「い、嫌……!」

手を掴まれそうになった時、その刀はやって来た。

「ありゃ?主、どうしたんだい?何だか困っているようだけれど」
「髭切!」
「な、なんだよお前」

髭切はナンパ男に背を向けて、私を庇う様に話しかけてきた。周りからは『イケメン!』『王子様みたい!』という色めき立った声が聞こえてきた。本当にまるで髭切が私のピンチを察して来てくれた王子様のように思えた。

「髭切、どうしてここに?」
「僕もこの映画に興味があってね。主が好きな映画なら、尚更観てみたいなと思って。ねぇ、僕と一緒にもう1回観てくれないかい?」

髭切は完全にナンパ男の事を無視して話を進める。その態度に怒ったナンパ男が再び怒鳴り出した。

「いきなり出てきて何だよお前!その子は俺が先に声を掛けたんだぞ!俺のものだ!」
「主が君の?そんなはずはないよ。だって、主は僕のもので、僕は主のものなんだから」
「?!」

そう言って、突然手を引っ張られたと思うと、髭切にキスをされていた。それを見ていた女性達の悲鳴が聞こえてきた。男性達も感心したように声を漏らしている。私は顔から火が出そうなくらい真っ赤になっている事だろう。

「ひ、髭切……!?」
「……けっ!やってらんねーよ!」

ナンパ男はそう言って去って言った。残された私はパクパクと口を開いたり閉じたりするので精一杯だった。髭切は楽しそうに笑う。

「わかってくれて良かったね」
「もう、髭切ってば……」
「もしかして、僕、何か間違えたかな?」
「ううん。大丈夫。来てくれてありがとうね」
「ふふっ。それじゃあ、一緒に映画を観ようか。僕、主と一緒に観られてすごく嬉しいよ」
「そうね。私も髭切と一緒に観る映画はすごく楽しみよ」

映画みたいにロマンチックでは無かったけれど、髭切は王子様だ。そして、私はどうやら彼にとってお姫様らしい。















<膝丸Ver.>

私は審神者だけれど、一応学生だ。学業に支障が無いくらいに審神者業をしている。審神者をしている学生はレポートを提出する事で単位を貰う事が出来る。今日は登校日で、私は久しぶりの学校を楽しんだ。
学校が終わり、急いで本丸へ戻る為に駅に向かった。駅は帰りを急ぐ人達が沢山いた。駅に刀剣男士の誰かが迎えに来てくれる事になっている。私が駅前に立っていると、金髪が派手な男性が近づいてきた。

「なぁなぁ、その制服、この辺の学校の子だよね?」
「はい、そうですけれど。何か御用ですか?」
「俺、ちょっと迷っちゃってさ〜。確かこの駅の中に美味い喫茶があるはずなんだけれど、知ってる?」
「どうでしょう……。私はあまりこの駅で食事をしないので。駅員さんを呼んできましょうか?」
「あー、いいよ。俺は可愛いアンタに案内してもらいたいわけ」
「え?私に?」
「そうそう。やっぱり食事は可愛い子としたいじゃん?一緒に飯行こうぜ」
「でも、私、もう帰らないといけないんです。ごめんなさい」

私がそう言って断ると、金髪の男性は突然私の肩を組んできた。煙たい煙草の臭いがする。思わず私は顔を顰めた。

「ちょっとだけだから、な?俺と一緒なら、楽しい時間が過ごせるぜ?」
「あの、や、止めてください。あなたとは一緒に行きません」
「はぁ?何言ってるわけ?俺の誘いを断るとか、マジ有り得ないっしょ」

私は勇気を振り絞って断った。でも、この人はまるで話を聞いてくれない。怖くなって押し黙っていると、男性はニヤニヤと笑う。

「もしかして怖がってる?大丈夫大丈夫!俺、女の子の事は何でも知ってるから。楽しませてやるからよ」

いよいよ何も言えずに震えていると、私が聞きたかった声が響いた。

「その手を離せ。汚らわしい」
「いででででっ!!」
「!」

いつの間にか膝丸さんが来てくれて、男性の手首を掴んで捻りあげていた。男性は痛みで顔を歪めている。

「何だてめぇは!離しやがれ!」
「貴様こそ何だ?嫌がっている者にしつこく絡んでいたようだが」
「く……!」

抵抗する男性だが、膝丸さんの力にはびくともしなかった。

「彼女の前に二度と姿を見せるな。約束出来ないなら、この腕へし折ってやるぞ」
「わ、わかった!約束する!」

その言葉を聞いて膝丸さんは男性を解放した。男性は一目散に逃げて行った。

「主、迎えが遅くなって済まない。大丈夫だったか?」
「はい!膝丸さんが助けてくれましたから。ありがとうございます!」

私が頭を下げると、膝丸さんは首を振った。

「いや、礼には及ばない。もう少し早く俺が来ていれば、主に怖い思いをさせなかった。本当に申し訳なかった」
「いいえ。膝丸さんは、悪くありません。来てくれたのが膝丸さんで、嬉しかったです」

そう素直に言うと、『そうか』と言って膝丸さんは私を見つめる。

「二度目は無い。必ず主を護る」

膝丸さんはそう言って、私の手を包み込んでくれた。温もりが優しくて、私は涙が出そうだった。

「膝丸さん、嬉しいです」
「主を護る事は俺にとって当たり前の事だ。何かあったら必ず俺に言ってくれ」
「はい」

膝丸さんは本丸まで私と手を繋いでくれた。優しい膝丸さんの心遣いが嬉しかった。


2020.12.23 更新

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