撃退2 粟田口

<乱藤四郎Ver.>

審神者の仕事を片付けて、珍しく今日はオフ。せっかくだから自分が生まれ育った現世に戻って、ショッピングモールを見て回ろうと思った。
1人で外出をするのも味気ないからどうしようかと考えて居ると、乱ちゃんが声を掛けてきた。乱ちゃんを現世に誘ったら、目をキラキラさせて頷いてくれた。
『思い切りオシャレしてから行くので、あるじさんは先に行ってて』と言われたので、私は先に現世へ。私がいない間に新しいお店が入っている。見ているだけでも十分楽しい。すると、突然肩を軽く叩かれた。

「そこの君、何見てるの?」

振り返ると、見知らぬ若い男が立っていた。髪を派手な色に染めて、耳はピアスだらけ。何と言うか、普段の私だったら絶対に近づかないタイプ。
黙っているのもどうかと思ったので、とりあえず質問に答えた。

「ぬいぐるみですけれど……」

私の手の中には人間の赤ちゃんくらいの兎のぬいぐるみがある。とてもふわふわしていて、触り心地が良い。
男はニヤニヤ笑いながら言った。

「そのぬいぐるみ、欲しいの?俺が買ってあげちゃうよ〜」
「え?いや、見ていただけですから……」

本当は欲しかった。私に可愛い物は似合わないだろうけど、きっと乱ちゃんが好きそうだと思ったから。でも、この男からプレゼントされると思うと、悪寒を感じる。
男はしつこく私に迫ってきた。

「遠慮しなくてもだいじょーぶ。俺、女の子にプレゼントするのに全然抵抗無いから。君みたいにカワイイ女の子ならね!」
「あの、いらないです。本当に」
「だから遠慮しないでも良いって。君の可愛さが俺にそうさせているんだよ。」
「あの……!」

このタイプの男にはもっとハッキリ言わないといけない。語尾を強めて再度断ろうとした時だ。場違いなくらい明るい驚きの声が上がった。

「わ〜っ!そのぬいぐるみ、すごく可愛いっ!」

現れたのは乱ちゃんだった。現世に合わせた可愛らしいピンクのワンピースに、レースの靴下が似合っている。長い髪はハーフアップにまとめられていて、ナチュラルメイクがより一層乱ちゃんを可愛らしい子に惹き立てている。流石乱ちゃんだと言いたくなる。
乱ちゃんはさり気なく私とナンパ男の間に入って、ニコニコしながら男に言った。

「おにーさんも可愛いと思うよね、このぬいぐるみ」
「いっ、いや、君の方がうんと可愛いよ!!」
「そう?ふふっ、ありがと★」
「君、本っ当に可愛いね!これから時間無い?俺とデートしようよ!ぬいぐるみだっていくらでも買ってあげちゃう!」

ナンパのターゲットが私から乱ちゃんに移った。男の目はわかりやすいくらいハートマークになっている。女として完全に私の負けだが、全然悔しくない。むしろ乱ちゃんには尊敬の念しか浮かばない。
乱ちゃんは私に『ちょっと待っててね』と目配せをして、男にとびきりの可愛い笑顔を見せた。

「おにーさん、ボクとデートしたいの?良いよっ★ほら、一緒にあっちに行こう!」
「積極的なんだね、君!」

グイグイと乱ちゃんはナンパ男の腕を掴んで人気の少ないところへ行ってしまった。それから3分もしない間に1人で私のところに戻って来た。あっという間の事で、私は少し頭が追い付いていない。

「お待たせ、あるじさん。遅くなってごめんね。大丈夫だった?」
「あ、うん、大丈夫。ありがとう。乱ちゃんこそ、大丈夫?さっきの男の人は……?」
「さっきのおにーさん?気にしなくても平気平気。ちょ〜っとお話したら直ぐ帰っちゃったよ。あるじさんよりボクの方が可愛いとか、意味わかんない事言ってきたから、……ね?あるじさんの方がずっとずっと可愛いのに、おかしいでしょ?」
「え?あ、そう。ありがとう……」

乱ちゃん、笑っているけれど目が座っている。ナンパ男に合掌。

「ところであるじさん、そのぬいぐるみ欲しいの?」
「ううん。乱ちゃんに似合うだろうな〜って思って」
「確かにこの兎さんすごく可愛いっ!ボク欲しいな。あるじさんも欲しいでしょ?」
「え?でも、私にはこんなに可愛いの、似合わないよ」
「そんな事無いよ!ねぇ、どうせならお揃いで買おうよっ!ボク、あるじさんとお揃いの物が欲しい」

乱ちゃんはさっきの怖い笑顔じゃなくて、無邪気に微笑むと、私の手を取った。その優しさに私は心から嬉しくなって、乱ちゃんの手をぎゅっと握り返した。
















<薬研藤四郎Ver.>

私は今カフェのテラス席でコーヒーを飲んでまったりしている。今日は久し振りのオフの日で、このカフェには審神者になる前に通っていた。香ばしいコーヒーの香りに癒される。
私1人でも良かったのだけれど、心配をした薬研君から連絡が入り、急遽薬研君が現世に来る事になった。それで今は薬研君をここで待っている。
薬研君がいた戦国時代ならばともかく、私が生まれ育った現世ではそんな物騒な事は起きないと思う。それでも、薬研君が安心出来るならと承諾した。
薬研君が来てくれるのは内心嬉しかった。ここ最近は皆忙しくて、薬研君の息抜きにもなるだろう。薬研君にもここのコーヒーを味わって欲しかった。薬研君とも久しぶりにゆっくりと過ごしたい。
私がコーヒーをちびちび飲んでいると、前から足音が聞こえた。一瞬薬研君が来たのだと思ってパッと顔を上げたら、そこには見知らぬ男が立っていた。長髪でだらしない恰好をした、近寄りがたい感じの。コーヒーを片手に持ち、胡散臭い笑顔を貼り付けている。

「ねぇアンタ、この席空いてる?俺もここで飲んでも良い?」

他のテーブル席は空いている。それなのに、どうしてこの男は私の隣の席を選ぶのか。
不信に思って押し黙っていると、男はそれを肯定と勘違いして隣に座ってきた。私は身体が強張るのを感じた。

「ここのコーヒー美味しいよね〜。俺も好きでさぁ。そしたらアンタみたいな美人さんが1人で座ってるのを見つけたワケ。こりゃあもう隣に座るっきゃないっしょ?」
「……あの、もう直ぐ連れが来ます。他の席も空いていますし、他の席に座ってもらえますか?」
「ええ?釣れないね〜。そんな塩対応じゃ、せっかくのコーヒーが不味くなるよ」

『それはアンタのせいでしょ』と言いそうになるのをぐっと堪えた。ここで騒ぎを起こしたら目立ってしまう。他のお客さんにも迷惑だ。

「俺、ここよりも美味しいカフェ知ってるの。そっちの方が雰囲気も良いし、一緒に行かね?」
「行きません」

どうあってもこの場から男は動かないらしい。私はサッとコーヒーを持って立ち上がった。

「お?どこ行くの?」
「あなたがどこかへ行かないなら、私が移動します」
「ちょっと待って待って。そしたら俺がつまんないっしょ。美人さん、相手してよ〜」

男も立ち上がってついて来ようとした。面倒な男に絡まれてしまった。どうしようか悩んでいると、少年にしては低くて通る声が聞こえた。

「大将、待たせた」
「薬研君!」
「な、何だコイツ……?」

薬研君は私とこのしつこい男の間に割って入り、自分よりも背の高い男に向き直った。

「旦那、悪いけれどこの人は俺っちの連れなんだ。席を外してくれねぇか?」
「はぁ?お前みたいなガキが、この美人さんに釣り合うわけねぇだろ?お前こそどっか行けよ!」
「ちょ、ちょっとあなた―――」

失礼な事を言い出したので、流石の私もカチンときた。だが、私が何かを言う前、薬研君が軽くあしらう。

「嫌がっている女の様子もわからねぇなんて、男としてダメなんじゃねぇか?大将と釣り合う男になってから出直しな。少なくても、アンタと俺だったら俺の方がマシだと思うぜ?」
「こ、このっ!!」
「あっ?!」

激情に駆られた男が、持っていたコーヒーのカップを強く握り、薬研君に浴びせかけた。コーヒーの茶色の液体が、薬研君の白い頬や額に盛大にかかってしまった。あまりに酷い光景に、私は息を飲んで口を覆った。周りに居合わせた人達も、ぎょっとしてしまう。
薬研君は微動だにせず、静かに佇んでいる。それが逆に男の恐怖心を煽った。

「……気は済んだか?」
「ひっ?!」
「さっさと消えてくれよ。大将にも周りにも迷惑だからな。俺が冷静でいられる内に、さ……?」

まるで戦場で見せるような斬れ味の鋭い眼光が、男を貫き、男はそのまま脱兎のごとく逃げ出した。
私はやっと我に返って自分のハンカチを取り出し、薬研君の頬や額を拭った。

「ごめんなさい!私のせいでこんな事に……」
「ああ、気にすんなよ大将。これくらい大した事無い」
「薬研君、どうして避けなかったの?薬研君の起動だったら、あれくらい……」

薬研はニッと爽やかに笑ってみせた。

「俺が避けたら、大将にコーヒーがぶっかかっちまうだろ?俺は大将の守り刀だからな。大将が無事で良かったよ」
「薬研君……!」

見た目は儚げな美少年なのに、ものすごく恰好良過ぎるよ!!















<鳴狐Ver.>

本丸でテレビを観ていたら、稲荷寿司の特集をやっていた。そういえば最近現世に行っていないなと思い、その稲荷寿司を食べたくなって急遽出掛ける事にした。
いつもだったら近侍を連れて行くのだけれど、たまたま忙しくて、他の刀剣男士達も忙しそうだったから今日は独りだ。でも平気。だって、現世で生活をしている時は、独りで出掛けるなんて当たり前の事だったし。
私は稲荷寿司特集で見かけたお店に行った。やっぱりかなり並んでいる。でも、日本人は美味しいものには並んででも食べたいという習性(?)がある。私も例外ではない。きっとそれだけ美味しい稲荷寿司なのだろう。
流石に刀剣男士の人数分は買えないけれど、食べさせたいと思っている特別な刀剣男士がいる。最近極の修行から帰ってきた鳴狐だ。鳴狐の極のお祝いの為にも、この美味しい稲荷寿司は絶対に食べて欲しい。何なら一緒に食べたい。
そんな事を考えていると、横からいきなり声を掛けられた。

「そこのお嬢さん」
「はい?」
「僕とデートしませんか?君がその店に並んでいる間、ずっと見ていたんだけれど、君みたいに可愛い子は僕に相応しいと思うんですよね。つまり一目惚れです」

インテリ眼鏡のこの男、どうやらナンパらしい。しかもナルシストっぽい臭いがプンプンする。関わり合ったら絶対にいけない奴だと直ぐにわかった。

「見てわからない?私は今稲荷寿司を買う為に並ばないといけないの。あなたの相手をしている暇は無いです」
「稲荷寿司なんかより、もっと美味しい料理を出してくれるレストランを知っていますよ。さ、僕と一緒に行きましょう!そして、僕達の将来について話をしようじゃないか!」
「何言ってるか全然わからない。他のお客さんにも迷惑だから、他所へ行ってどうぞ」
「……あ〜、わかりましたよ!ツンデレという奴ですね!そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ」
「?!」

口調はあくまでも柔らかだけれど、ぐっと掴まれた手首がきつい。
これ以上ここにいたら他のお客さんにも迷惑になる。私は男の腕を思い切り振り払って列を飛び出し、走り出した。流石にこれで諦めるだろう。そう思っていたのに、振り返ると男が追いかけてきていた。

「待ってくださーい!可愛いお嬢さん、僕との話はまだ終わっていませんよー!」
「しつこいっ!」

私は振り切ろうと走った。

「追いかけっこですかー?!ふふっ、僕は狙った女性は逃がさない主義ですからね!負けませんよー!」
(妙なプライドを刺激してしまったみたい……)

男の足は女の足よりも速い。このままでは追いつかれてしまう。
私は狭い路地に入った。隠れられる場所を探す為に。でも、何とそこは行き止まりだった。男の足音がそこまで迫っている。ヤバい。大ピンチだ。
すると、冷や汗が滲んだ私の手を握られる。あのナンパ男がもう追いついたのかと思って振り返ると、そこにいたのは黒いマスクを付けて現世風の恰好をした鳴狐だった。

「鳴狐?!」
「あるじ、捕まってて」
「え?……わぁっ?!」

鳴狐は私が返事をする前にお姫様抱っこをした。そのまま重力を無視するようなジャンプ力で、直ぐ傍のビルの壁を蹴りながら屋上へ上ってしまった。まるで風みたい。一瞬で終わった空の旅。
地上を見下ろすと、ナンパ男が行き止まりの前でうろうろしている。行き止まりで私が消えてしまったのだから、まるで狐につままれた気分だろう。やがて諦めたのか、とぼとぼと元来た道を帰っていった。

「あるじ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ありがとう、来てくれて。鳴狐、本当に極になって強くなったんだね」

下ろしてくれるのかと思ったら、そのままぎゅっと抱く腕に力を込められた。鳴狐の温かさに胸がドキドキする。

「鳴狐?」
「現世に独りで行ったって、聞いたから。声、掛けて欲しかった」

どうやら拗ねているらしい。

「さっき、危なかったぞ。鳴狐は心配だ」
「ごめんごめん。鳴狐に内緒で買いたいものがあったからさ」
「買いたいもの?」
「そう!すごく美味しい稲荷寿司だって。一緒に買いに行こうよ」
「わかった。狐も、きっと食べたがる」
「そうだね」

私が笑うと、鳴狐の目が細くなる。もう少しだけ、このまま抱き締めていて欲しい。
ビル風が少し強かったけれど、鳴狐に包まれていてちっとも寒くなかった。
















<一期一振Ver.>

刀剣男士というのは、人間ではない。付喪神。つまり神様だ。その姿はまさに人間離れした美しさと艶やかさがある。
現世へ刀剣男士と一緒に出掛ける時は、細心の注意が必要だ。何故ならその優れた容姿に人間達が引き寄せられてしまうから。現世の服を着て貰って、なるべく人目に付かないようにする。
目立つ事が苦手な私は、現世へ行く時は特別な事情が無い限り刀剣男士を連れて歩かない。審神者がプライベートで時間遡行軍に襲撃される場合もある。だから護衛を付けるのが一般的なのだが、正直私には無理だ。何故なら神レベルのイケメンを引き連れて歩くなんて、女性達に睨まれてしまうから……。とても視線が痛いのである。
実際に一度刀剣男士と一緒に現世へ行った時、女性達がざわつき、敵意を剥き出しにされた。小心者の私は、それがどうしようもなく心苦しかった。
そういうわけで、私は所用で現世に独りで来ている。

「さて、そろそろ帰ろうかな……」
「ちょっと、そこのアンタ」
「ん?」

振り返ると、湘南の浜辺から直で来たっていう感じの小麦肌な男性がいた。チャリチャリと片手で車のキーを回している。車に詳しくない私でも、かなり高そうな車のものだと直ぐにわかった。

「アンタ、めっちゃ可愛くね?絶対に可愛いっしょ!」
「え?!そんな事無いです!全然無いですから!」
「いや〜、俺様の目は誤魔化せないぜ!アンタとぜひ仲良くなりたい。俺様、見てわかるようにすっげえモテるわけ。だから、俺様に声を掛けられたアンタは超ラッキーっつーか」
「???」

……これは、いったいどういう状況なのだろう?
私が混乱しているのを他所に、男性はもっと私に詰め寄ってくる。

「俺のお気に入りのクラブに案内すっからよ、俺の車に乗りな」
「えっ?あの、私これから帰らないといけないので……」
「はぁ?!マジであり得ねぇし!俺様が声を掛けてやっているっつーのに、何で?断るなんておかしいっしょ」

急に低い声で言われて、私は恐怖を感じた。ここでようやく私が今ナンパされていると気が付いた。人生初のナンパだが、どう振舞えば良いのか恐怖でわからなくなってしまった。

「俺様の車、日本では販売されてねぇ車なんだよ。超クールなやつ!それに乗れるんだから、やっぱりアンタは超ラッキーだな」
「やっ、止めてください……!手を放して……!」

いつの間にかガッチリと肩を掴まれてしまい、どんどん見知らぬ場所へ歩かされてしまう。このままでは不味い事になる。でも、相手は全然話を聞いてくれない。きっと、私が押しに弱いタイプだと思っているのだろう。

「いったい何をしているのですか?」

背後から聞き覚えのある声がした。この声は、一期さんだ!
天の助けとばかりに振り返ると、一期さんが凛々しい表情で立っていた。……あの派手な戦装束で。

「きゃー!誰?!あのイケメン!」
「王子様みたい……!」
「素敵〜!王子様?芸能人?あの衣装、舞台の宣伝か何かかな?」

周りにいた女性たちが色めき立っている。つまり、超目立ってる……!
言い訳出来ないくらい完全に彼は王子様だった。イケメンパウダー全開。ナンパしてきた男性も、一期さんの登場に困惑している。

「だっ、誰だてめぇは……?!」
「私の事は良い。それより、その女性を離してもらおうか。彼女は、私の大切な人ですから」
「「「きゃ〜っ!!」」」

女性なら誰でも一度は言われたい台詞を、サラッと言える。流石は一期一振……。本丸でナンバーワンの王子様系刀剣男士だ。
しかし、ナンパ男性も負けてはいない。勢いに押されていたが、どうにか持ち直した。

「はん!イケメンだか王子様だか知らねぇけどな、俺様はこの超絶可愛い子とドライブすんだよ。テメェはこんな良い車持ってねぇだろ?」
「車、ですか?確かに車は持っていませんが、私には愛馬がいますので」
「愛馬?」
「ヒヒーン!」
「白馬?!」

何と、道路脇には綺麗な毛並みの白馬がいた。しかも王子様仕様に馬具で装飾されている。王子様のような衣装に王子様が乗る白馬。そして、王子様のような美しい容姿。完璧な王子様だ。

「彼女を賭けて決闘しても良いですよ。私は彼女を護る為なら何でも致します」
「……ちっ!」

男性はこうして去って行った。

「一期さん、助けてくださってありがとうございます……。まさか貴方がギャグ担当だとは思いませんでした……」
「?」
「いえ、こちらの話です。でも、どうしてここに?」
「主がお独りで出掛けられたと聞いたので、お迎えに行こうかと。そしたら弟達に『もっと格好良く迎えに行かないとダメだ』と言われましてな。どうでしたか?」
「……ふふっ」
「主?」
「あははっ、一期さん、その恰好に馬……!笑えるくらい本当に王子様みたいでしたよ!もう目立つの何てどうでも良くなるくらい」
「そうですか。でしたら、これからは現世へ行く時も、この一期一振をお連れください」
「はい!あ、でも次からは現世の服を着てくださいね」
「何故です?」
「そうじゃないと目立ち過ぎて、2人きりでデート出来ないですから」

一期さんは頬を赤らめながら嬉しそうに『はい』と頷いてくれた。
















<鯰尾藤四郎Ver.>

鯰尾君は活発な刀剣男士だ。現世にも興味があるみたいで、前から連れて行って欲しいと頼まれていた。そして、本日は久しぶりのオフの日になり、鯰尾君と一緒に現世に来ている。
場所はショッピングモールの中にあるゲームセンターだ。私はあまりこういうところに馴染みが無いけれど、鯰尾君の目をキラキラさせて喜ぶ姿が見られて嬉しい。

「主〜!見てくださいよ、コレ!何ですか?」
「クレーンゲームだよ。中にあるぬいぐるみとかの景品をクレーンで取るの」
「へぇ、楽しそう!俺、やってみたいです!」
「だったらお金を出すね」
「いえいえ、お小遣いあるから。……あ、でも小銭が無いですね。確か向こうに両替機があったはず。俺、両替してきますね!」
「じゃあ、私はここで待ってるね」

鯰尾君が両替機に行き、少しの間待っていると、大学生くらいの男性が近づいてきた。タンクトップにジャケットを緩く羽織っている。何だかいかにもゲームセンターでたむろしているのが似合いそうな人だ。

「ちょっとそこのお姉さん」
「はい?私ですか?」
「1人でゲームセンターに来てるって、ありえなくない?」
「……あなたも1人ですよね?それに、私は1人じゃないですから」
「はぁ?何?聞こえねーよ」

ゲームセンターはゲームの電子音が騒がしい場所だ。この人に私の声はちゃんと届かなかったみたいで、ぐっと更に近付いてきた。顔を至近距離まで近付けられて、私は固まってしまう。

「俺、今すっげぇ退屈してたところでさぁ。お姉さんみたいな綺麗な人と一緒に遊びたいんだけれど」
「私、人を待っていますから。お断りします」
「はぁ?だから聞こえねーし!」
「…………」

この人、絶対に聞こえてるのに聞こえてない振りをしていると思う。意地悪な人だ。ナンパなら、他所でやって欲しい。
私はこの人から離れようとして後ろに下がろうとした。でも、男の腕が私の肩に伸びてくる。避けられない!

「はいそこまで〜」
「うおっ?!」
「鯰尾君!」

私に向かってきていた腕を掴んだのは、戻ってきた鯰尾君だった。小脇にスイカくらいの大きさのもちもちとしたマスコットを抱えている。

「何だよガキ!邪魔すんな!この綺麗なお姉さんは俺と遊ぶんだからよ!」

男は乱暴に鯰尾君の手を振りほどいて睨みつけてきた。
鯰尾君は特に焦った様子も無く、人差し指を軽く振って『ダメダメ!』と言った。

「このすごーく綺麗なお姉さんは、俺のすっごく大事な人なんだから。あなたにはあげないよ。残念でした!」
「なっ?!この、ガキが生意気な事を言ってるんじゃ―――ぶふっ?!」

鯰尾君は小脇に抱えていたもちもちの巨大マスコットを男の顔に押し付けた。

「さっきクレーンゲームで取ったんですよ。特別にお兄さんにあげるから、これで許してくださいね」
「はぁ?!そんなもんで許すわけ―――ひいっ?!」

鯰尾君は笑っているけれど、その目は完全に敵を前にした時の鋭さがあった。

「許してくれますよね?」
「は……はいぃっ!!!」

男は泣きそうな顔になって走り去ってしまった。

「ありがとう、鯰尾君」
「いえいえ!俺の方こそ遅くなってごめんなさい」

振り返った鯰尾君は、いつもの鯰尾君だった。そして、ポケットから可愛らしい星の形をしたチャームを取り出した。手の平サイズ。パステルイエローが可愛い。

「さっきコレもクレーンゲームで取ってきたんですよ。主にあげちゃいます!」
「わぁっ、ありがとう!すごく可愛い」

私が喜んで受け取ると、はにかんだ笑顔で鯰尾君はこう言った。

「この星のチャームって、好きな人にプレゼントすると恋が実るそうなんですよ」

キラキラ輝いているその星は、私の宝物になった。だって、これが鯰尾君の気持ちだから。


2019.05.14 更新

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