大学生活というのは、高校生活よりも自由を謳歌出来ると言っても過言ではない。
大学では、自分で興味のある講義を受けたり、研究に勤しめる。
キャンパスライフとは、決して勉学だけではない。サークルに参加して、学生同士の交流を深める事も醍醐味である。同じ趣向の者同士の交流は、大変貴重でかけがえのない時間だろう。まさに青春のひと時だ。
そして、学生同士の交流は、何も友情だけではない。年頃の男女が集まれば、恋の花の一つや二つ咲くだろう。つまりは、合コンである。
この日、は初めての合コンに参加する。大学に入学してから、は密かに合コンに参加してみたいと思っていたのだ。それは、一度は合コンに参加してみたいという好奇心からの行動だった。そして、切実な理由もある。
(私……このままだと、一生彼氏出来ないかもしれない……!)
そう、彼氏という名の恋人だ。恋愛が、青春を謳歌する為の彩りになる事は間違いない。
は、残念ながら、年齢=彼氏無し歴という称号の持ち主だ。
(私だって、女子トイレで彼氏彼女の話題でキャッキャウフフしたい!惚気られる側から、惚気る側の立場になってみたい!)
年頃になった乙女達の話題と言えば、恋愛だ。同じクラスの男子がカッコいいだとか、先輩に素敵な人がいるだとか、最近告白をしただとか、好きな人と両想いになれたとか。そんな話で盛り上がってみたいじゃないか。
だが、現実は甘くなかった。は、中高一貫の女子高に通っていた。親族以外の異性とはまともに会話もした事が無い。だからなのか、余計に恋愛に憧れを抱いていた。
(今日の合コンで、男性とお話しをして、出来れば素敵な出会いに繋げたい……!)
は一張羅の薄紅のワンピースを着て、合コン会場である小洒落た居酒屋へと向かった。
合コン開始15分前。8人が向かい合って座れる半個室に3人の女性を見つけた。
「こんばんはー!皆来てるね」
明るくが挨拶をすると、既に集まったメンバーがに視線を向けた。
「〜、待ってたよ」
「あ、可愛いワンピース着てるね」
「本当だ!可愛い!」
「そうかな?ありがとう」
この女性メンバーは全員の大学で出来た友人だ。と同様に、今回の合コンは楽しみにしていたようで、メイクも服も普段よりオシャレだ。
の感心事は、男性側のメンツだ。
はソワソワしながら友人に尋ねた。
「合コンの男性メンバーは、どんな人なのかな?」
「本丸大学の人だよ。あ!そうそう、聞いて聞いて!4人来るんだけれど、すっごい美形の人が来るんだって!しかも2人も!」
「えー本当に?!芸能人だったら、誰に似てる?」
「確か、三浦宏規と高野洸だって」
「えー?!それってすごくイケメンじゃないのっ!」
「へー、そ、そうなんだ?」
芸能人に疎いは会話に入れずにいたが、かなりのイケメンだという事はわかった。
(ん?本丸大学……?いやいや、まさかね……)
は、男性メンバーの在籍する大学名に引っかかりを感じた。本丸大学には、の身近な人が通っている。身近ではあるが、今回はどうしても鉢合わせをしたくない人物だ。
は一抹の不安を覚えながら、友人達と待っていると、程なくして2人の若い男性がガラリと戸を開けて店に入って来た。2人は、遠目から見てもかなりの美形である事がわかるくらい、とにかくイケメンだった。友人達はきゃあきゃあと湧き立つ。
だが、だけは硬直してしまった。
「ま、ま、まさか……?!」
向かって来るイケメン達は、ここで会いたくなかった人物だったのである。
「やあ、待たせたかい?」
「集合時間前に来たつもりだったが、待たせてしまって申し訳ない」
「そんな事無いです!全然待ってないです!」
「初めまして!今日は宜しくお願いします!」
「宜しくお願いします!今日は楽しみましょうね!ところで、三浦宏規と高野洸に似てるって言われません?」
「〜〜〜〜っ!」
は叫びそうになるのを必死に耐えていた。それなのに、その我慢をイケメン達が問答無用で崩していく。
「やあ、」
「、今朝振りだな」
「……そ、そうね……」
「えー?!何何?、このイケメン達と知り合いなの?!」
「しかも今朝振りって何?!」
「いや、その……」
が口ごもっていると、イケメン――髭切は柔和に微笑んだ。
「僕は源髭切。こちらは、弟の、えーっと……」
「膝丸だ兄者!俺は髭切の双子の弟、源膝丸だ。は俺達の家の隣に住んでいて、小さい頃から知っている仲だ」
「通学路も途中まで一緒だからね。今朝も会っているんだよ」
「こんなイケメンがお隣さん?!」
「イケメンと一緒に登下校?!
「何それ?!どこのドラマ?!どこの少女漫画?!ちょっと、今まで全然教えてくれなかったじゃない!」
「あ、うん……実はそうなんだ」
「こんな素敵なお隣さんがいたなんてねー。もしかして、どっちかが彼氏なの?」
「僕だよ」
「俺だ」
「ちょっ、ちょっと2人共ふざけないで!!何サラッとおかしな事言ってるのよ!!」
をからかうように、でも全く笑っていない目で2人が答える。は首をブンブン横に振り、必死になって否定した。
「この2人は、私の父方の従兄弟!私のお父さんがお母さんの家のお婿さんだから、苗字は違うけれど、親戚なの!ただの従兄弟!」
「そ、そうなんだ……」
「、目が血走ってるよ……?」
「だ、だって……」
が必死になって否定するのも無理は無い。何故ならの恋愛経験値がゼロの原因が、この双子だからである。
が年頃になってからは勿論、物心つかない頃からずっと双子は傍にいた。隣の家に住んでいて、しかも従兄弟ともなれば、当然近しい仲だろう。だが、双子は傍に居過ぎている。双子は、に近づく男は追い払い、牽制し、とことん邪魔をしてきた。今回もの参加する合コンを邪魔しに来たのだろう。
「髭切、膝丸。合コンなんて、普段なら頼まれても参加しないくせに。どういう風の吹き回し?」
は笑顔を張り付けながらも、怒りを滲ませて尋ねた。すると、髭切がにこやかに答える。
「ああ、君の友達の……えーっと、金髪の派手な恰好の子が教えてくれたんだよ。が今日合コンするってね」
(獅子王の事かーーッ!!!)
フリーザに殺されたクリリンの事を激怒する悟空みたいな声を出してしまうところだった。
合コンに参加する嬉しさを、うっかり同じ大学の獅子王に話してしまった事が悔やまれる。
の脳裏に、『あ〜、ごめんごめん。まあ、今度ジュース奢るから許せよ!』と爽やかに謝る獅子王の顔が浮かぶ。は今直にでもぐスーパーサイヤ人になれそうな気がした。
「兄者も俺も、合コンでが羽目を外して、周囲に迷惑を掛けてしまわないかと心配していてな。だからこうして来た」
「もう、素直じゃないね、弟。合コンに参加するような軽薄で変な男に、大事な大事な従姉妹が絡まれたりしないか心配だったんだろう?」
「なっ?!そ、そこまで過保護じゃないぞ、俺は」
「まぁ、その軽薄で変な男達はここに来ないんだけれどね」
「ええっ?!来られない!?どいういう事?」
「えっと、階段から転げ落ちそうになった妊婦さんを助けていたせいで、参加出来なくなったんだよ。だから、僕達以外の男は来られないんだ。残念だったね」
「何その使い回されてカビの生えた言い訳は」
は悟った。『絶対にこの2人が何かしたに違いない』、と。
絶望していると、の友人達に膝丸が頭を下げた。
「そういうわけで、合コンには俺達兄弟しか来られなくなった。人数が合わなくなってしまい、申し訳ない」
「そんな事、気にしないでくださいっ!!」
「私達、全然大丈夫オールオッケー問題無しですから!!」
「貴方達みたいな素敵な殿方がいてくれれば、それで全っっっ然大丈夫ですからっ!!」
「ありゃ?怒ると思ったのだけれど、問題無かったみたいで良かったよ」
「あ、ああ……」
女性達の機嫌を損ねなくてホッとしたのも束の間、怒り心頭中のがメニューの載ったタブレットを差し出した。
「はい、ドリンク選んでね。とりあえず今は乾杯しましょうか。とりあえず今は、ね?」
「……ハイ」
膝丸はの怒りを肌でビシバシ感じながら、タブレットを受け取った。
注文したドリンクが全員に提供されて、の友人の1人が、乾杯の音頭を取る。
「それじゃあ、私達の素晴らしき出会いに乾杯!」
「「乾杯!!」」
「かんぱーい」
「乾杯」
「…………乾杯」
よろよろとカシスオレンジを掲げたの腕を、ぎゅっと友人が掴んだ。
「というわけで、ごめんね。ちょっと私、メイク直してくるから!」
「えっ?」
「あ!私もメイク直す!」
「私も〜!うふふっ」
「えーー」
イケメンを前にして、気合を入れ直したいのか、彼女達はそう言い残してパウダールームへと駆け込んで行った。
この場に残された髭切、膝丸を前に、は大きな溜め息を吐いた。
「もう……、何でここに来たの?何度も言うようだけど、髭切も膝丸も、合コンなんて今まで一切参加していなかったでしょ?それなのに……。私に何か恨みでもあるわけ?」
「うーん、そうだね。恨みというか、愛憎――いや、憎くは無いから、恋情?」
「「ブッ?!」」
思わずと膝丸が噴き出してしまった。
「ありゃ?僕、何かおかしな事を言ったかな?」
「あ、兄者?!このようなところで、そんな破廉恥な事を……!」
「ちょっと膝丸、大きな声を出さないで……!」
は慌てて周囲をキョロキョロと窺う。人々は美味しい食事を前に会話を楽しんでおり、賑やかだ。半個室という事もあって、誰も達に注目していない。多少の騒ぎには誰も気づかないだろう。
は『こほん』と咳ばらいをして、仕切り直した。
「からかわないでよ、髭切。従姉妹の私じゃくて、他の女の子にその恋情とやらをぶつけてくれる?それと、膝丸も。私が心配だからって、合コンに乗り込んで来なくても良いから。私はもう子供じゃない。アルコールも飲める年齢なんだからね」
「僕は別にからかってなんかいないよ。ただ僕は真実を述べただけだ。僕は、君に恋をしているんだよ」
「……はあ……?」
はそう反応するだけで精一杯だった。
「君は子供の頃から隙があり過ぎるんだ。今は大人になって、その……綺麗になったからな。君に変な虫が寄ってくるのは、絶対に耐えられない」
(赤く見えるのは、お酒のせいだと思いたい……)
を口説くこの双子は、周囲の女性達はおろか、男性でさえもざわつくような容姿だ。手足が長く、トップモデル並みのスタイルをしている。
兄の方は、少々ぼんやりしたところもあるが、一度懐に入った者に対しては心から大切にする。そして、弟の方は、奔放な兄に振り回される印象を受けがちだが、真面目で誠実。
2人共、剣道サークルに入っており、その腕前は折り紙付きだ。
顔良し性格良しスタイル良しのスポーツマン。しかも双子ときた。
こんなハイスペック男性に迫られて、落ちない女性などいるのだろうか?
いや、いる。だ。は、絶対に口説き落とせない女性なのだ。
何故なら、彼女は、彼女達3人は――
「僕達が君を口説くのはおかしい?日本の法律では、いとこ同士は結婚出来るのに?」
「そうだぞ、兄者の言うとおりだ。結婚は三親等以内だと出来ないが、いとこ同士である四親等は可能だ。俺達はいとこ同士なのだから、……俺や兄者がを好きでも問題は無いはずだ」
「大有りよっ!だって私達、戸籍は違うし生まれた両親も別々の夫婦だけれど、血の繋がった姉弟じゃない……!!」
説明しよう!この3人の関係は、家系図を辿ると確かに家族法上、いとこ同士だ。しかし、髭切と膝丸の両親との両親は、お互いに一卵性の双子の兄弟と姉妹であり、双子同士の結婚なのである!
一卵性の双子というのは、遺伝子が全く同じの兄弟姉妹。髭切と膝丸の両親と、の両親からは、同じ遺伝子を受け継いだ子供が生まれてくる。つまり達は、家族法上で戸籍も別々のいとこ同士なのだが、遺伝学上では血の繋がった姉弟なのである!!平たく言えば、結婚出来る姉弟なのだ!!
ちなみに、双子とは同じ日に生まれている。が5時間先に生まれており、実質三つ子のようなものだ。
「どうしてここは日本なんだ……アメリカではいとこ同士の結婚が認められていない州が多いのに……」
「ちなみにドイツでは、いとこどころか伯父姪間などでも結婚出来るらしよ」
「ちなみにフランスでは、【重大な理由】があれば、大統領の許可を貰って三親等婚が可能だそうだ」
「以上、他国の親族間結婚事情でした!……って、誰に説明してるのよ?!」
はノリツッコミを終えて、カシスオレンジを飲み干す。飲み終えた後は、ガッカリしたように大きな溜め息を零した。
「あ〜……、私も女子トイレで恋バナするの、夢だったのになぁ……」
「え?何その夢?」
「変わった夢だな」
「変わった夢で結構!とにかく、あの子達が戻ってきたら、楽しくお喋りしてよね。私はひたすら飲んで食べる事にするから」
「ありゃ?てっきり帰ると言い出すと思っていたよ」
「確かに」
「どうせ私が帰ったら、髭切と膝丸も帰るとか言い出すんでしょ?」
「そうだね。他の子には用は無いし」
「そうだな。がいないなら、帰るしか無いだろう」
「それじゃ友達が可哀想過ぎる!」
友人達は、イケメン2人との合コンを楽しみにしているはずだ。ここで双子が帰ってしまったら、合コンの男性メンバーはゼロだ。完全にお通夜状態になるだろう。と一緒に帰るなんて言い出したら、友人のへの信頼も墜落するに違いない。
「まあ、僕はが居ればそれで良いよ。も、僕達とお喋りすれば良いだろう?僕も合コン初めてだから、ワクワクしていたんだよね」
「俺も合コンは初めてだが、と食事をしながら歓談するのは楽しそうだ」
髭切と膝丸は、小さな子供のように目をキラキラと輝かせている。だが、はそうもいかない。
「何が悲しくて血の繋がった弟2人と合コンしないといけないのよ?弟しか相手がいないし!合コンメンバーが弟率100%!それはもはや合コンじゃないわよ!」
『もう飲むしかない!』と言って、はタブレットを操作し、注文をする。2杯目のレモンサワーが届く頃、きゃぴきゃぴという音が聞こえてきそうな友人達が戻ってきた。さっきよりもしっかり目にメイクをしていて、唇は艶々だ。おまけに良い匂いまでする。
「お待たせしました〜!」
「あれ?、もう2杯目飲んでる」
「これが飲まずにいられるか〜!」
「何そのテンション?」
ぐいぐい飲んでいくに、友人達は怪訝な顔をした。
「私も何かおつまみ頼もうかな。髭切さんと膝丸さんはどうします?」
「美味しければ、何でも良いかな。あ、でもお酒は遠慮するよ」
「俺も酒はいらない」
「もしかして、車で来たんですか?さっき乾杯した時も、ノンアルコールでしたよね?」
「僕、飲まないんだ。お前もそうだよね?」
「ああ」
「?」
は双子の言動に疑問を感じる。髭切も膝丸も、車は所持していない。それに、どちらかと言えば酒は好きな方だったはず。それなのに、酒を飲まないとは。
(何でだろう?この後、何か用事でもあるのかな……?)
友人の1人が、両手を組ながら髭切と膝丸にハートマークの視線を飛ばした。
「は〜〜、それにしても本当に溜め息が出るくらい格好良いですね!も、こんなに恰好良い従兄弟がいたら、ときめいちゃわない?」
「ええッ?!」
「あー!それ、私も思った!普通、こんなにイケメンの従兄弟なんていないし」
「それに、キョーダイなら無理だど、いとこ同士だったら結婚も出来ちゃうからねー」
「ちょ、ちょ、ちょっと……?!」
は友人達の容赦無い言葉にあたふたしてしまう。確かに髭切と膝丸はイケメンだ。そこには同意出来る。しかし、素直に認めるわけにはいかない。
(私が双子を好きだなんて、絶対にダメ!近親相姦少女漫画の金字塔、【罪に濡れた2人】も真っ青だっつーの!いや、アレよりももっと質が悪い。あの漫画では、お互いを姉弟だって知らずに好きになったんだから、生まれた時から血の繋がりがある事を知っている時点で――)
「僕は好きだよ、の事」
「おっ、俺だって好きだぞ!の事は」
(アウトーー!!)
髭切の唇は、にんまり弧を描いていて、をからかう気満々だった。膝丸はというと、恥ずかしそうにしている。
友人達はあまりにストレートな好意を表現する双子に、頬を赤め、そして戸惑いという複雑な表情を見せた。
(相変わらず全っっっ然私への好意を隠さないよね!わかってたけどね!)
結婚出来るいとこ同士の関係だったとしても、やはり血は濃いわけで。このように、双子がへの好意を人前に出すと、奇異の目で見られる事もあった。それが、は本当に堪らなく嫌だった。
(髭切と膝丸が、頭のおかしい奴だと思われるのが嫌。私の大切な2人が、そんな偏見の目で見られるなんて、絶対に嫌だ)
髭切と膝丸の猛アタックには引いているものの、は2人を大切に思っている。
が何かフォローをしようと口を開いたが、言葉にする前に髭切と膝丸に遮られた。
「……まあ、は俺達が幼い頃から知っている親族の1人だからな。俺達が仲が良くても当然の事だ」
「そうそう。家も隣だからね。ね?」
「……え?あ、うん、そうそう。だから皆が心配するような事は、全然無いよ」
まさか双子が自分でフォローするとは思わず、は鳩が豆鉄砲を食ったようになってしまった。
3人の仲を怪しんでいた友人達は、納得した様子で頷いてくれた。
「そうなんだ〜」
「家族みたいな感じなんだねー」
「ちょっと心配しちゃったけれど、大丈夫なんだね」
「そうだよ、この2人は、私の家族…………」
「あれ?……?」
は酔いが回ったのか、そのままスーッと机に突っ伏して寝てしまった。くうくうと呑気な寝息が聞こえてくる。
友人達が意味深にクスクスと笑ってを見た。
「あー、寝ちゃったか」
「ふふ、本当だ」
「ってお酒に弱かったんだねー。こんなイケメンを前に眠っちゃうなんて、やっぱり家族って感じなんですね?」
そう言って友人の1人が双子を見た瞬間、ゾッとしたものを感じ取った。笑っていると思っていた金色の瞳が、ギラギラと光っていたのである。それはまるで、鬼の形相。
「お前達は、は酒に弱くて直ぐに寝てしまい、一度寝るとなかなか目覚めない事を知っていたんだろう?だから、普段は絶対に合コンに誘わないを連れてきた。違うか?」
「えっ……?」
「何の事ですか……?」
膝丸にもし視線で人を殺せる能力があったなら、間違いなくこの友人達は即死だっただろう。
髭切はにこにことしているが、決して笑っていない事はわかる。
「とぼけなくても良いよ?僕達、全部知っているんだ。合コンに来られなくなった男2人は、に欲望まみれの好意を持っていた。そして、はお酒を飲むと直ぐ寝てしまって、滅多な事じゃ起きないと、ある時君達は知った。だから、合コン後に酔って眠ったを、男達に任せてしまおうと、そう思っていたんだろう?」
介抱をする男達が、眠っているに何をするのか、想像にするに難しくない。
「そっ、そんな事するわけない!でたらめよ!」
「そうですよ!私達、の友達なんですよ?」
「を貶めるような事はしません!そもそも、証拠はあるんですか?」
膝丸は黙ってテーブルにスマホを出すと、画面をタップした。それは、音声を再生するものだった。そして聞こえてきたのは、耳を塞ぎたくなるような内容。
『って本当に直ぐ男を誑かすよね〜。直ぐに人の彼氏取っちゃうんだもの、サイテー』
『本当よね。男はみ〜んな一目での事好きになっちゃうし。まあ、美人だから、がいると男が直ぐに寄ってきてくれて、助かるには助かるんだけれどさ〜』
『でも、結局男は全員が目当てでしょ?絶対に合コンに呼びたくないわ、私』
『私、一度は痛い目に遭った方が良いと思うんだよね。私の彼氏が心変わりしたのだって、のせいだし!絶対に許せない!』
『だったらさ、今度の事合コンに誘おうよ。偶然知ったんだけどね、ってお酒に弱くて、直ぐ寝ちゃうし、なかなか起きないんだってさ』
『え?!本当?だったらさ、の事を狙っている男子を合コンに呼んで、それから――』
「「「もう止めて……!!」」」
友人達は悲鳴のような声でスマホを奪い取ろうとした。膝丸がそれよりも早く手に取り、スマホの停止ボタンをタップした。畳み掛けるように髭切が詰める。今度は笑っていない。
「君達と同じ大学に通う僕達の友達が、偶然君達の会話を聞いて録音したものだよ。彼は僕達だけじゃなくて、とも友達だからね。それで直ぐに僕達に教えてくれたんだ」
双子との友達というのは、きっと獅子王の事だろう。情に熱い獅子王なら、この危機を伝えずにいるはずがない。
友人達は血の気の引いた顔で、ただ冷や汗を流しながら俯いている。可哀想なくらい怯えていたが、髭切も膝丸も情け容赦しなかった。彼等が大切なのは、であって、彼女達ではない。
「さっきはの前だったから言わなかったけれど、僕達、の事は家族よりもずっと強い気持ちを抱いているんだ」
「が従姉妹だろうとそうじゃ無かろうと、俺達の気持ちは変わらない。何よりもが大切だ。故に、を傷つけようとする害悪は、絶対に許さない」
「ひっ……?!」
「ゆ……、許してください!つい、出来心で……っ」
「本当に、ごめんなさい……!」
「お前達は頭が悪いのか?俺は許さないと言っている」
「そう、許さない。だから、や僕達には二度と関わらないで。でないと、この録音は、実名と顔写真を添付して、SNSにでも公開する」
「そ……、そんな事をしたら、あなた達だってタダじゃ済まないわよ……?!SNSで拡散されれば、あなた達だって名誉棄損で訴えられるわ……!」
髭切と膝丸はきょとんとした後、お互いを見てクスッと笑った。そこには激しい怒りも恨みも無く、ただ無邪気な笑顔があった。
「僕達が、そんな事を恐れるとでも?」
「俺達が、そんなヘマをするとでも?」
異様な光景に、背筋が凍る思いだった。の友人達は、涙で顔面をぐちゃぐちゃにしながら、居酒屋を逃げるように出た。これでもう2度と彼女達の姿を見かける事は無いだろう。
「が寝ていて良かった。一応、あんな者達でも、の――姉者の友人だったのだからな」
どの道、が友人達のした事を知るだろう。だが、直接その現場を目の当たりにしたのとそうではないのとは、全く違う。双子は、のダメージが最小限になるようにしたのだ。
「お酒は好きだけれど、を背負って帰るのには危ないからね。お酒はまた今度、と楽しむ事にしよう」
髭切と膝丸は、眠っているの両隣に座った。そして、髭切がサラサラとしたの頭を優しく撫でる。
「……帰ろうか、」
その言葉を合図に、膝丸がを起こさないようにゆっくりと持ち上げようとした。しかし、突然むくっとが顔を上げたのである。
「その必要は無いわ」
「うおっ?!起きていたのか」
「さっき飲んでいたのは?」
「ノンアルコールよ。髭切と膝丸が来た時点で、やっぱりなんかおかしいなと思ったし、何か考えがあるのかもって。それで寝た振りをしていたの」
「そうだったのか……」
複雑な表情を浮かべている膝丸に、は少し寂しそうに笑った。
は、この超絶イケメン双子と血の繋がっている姉だ。当然、その顔は美しく、双子と引けを取らない。のような女神の化身とお近づきになりたいという男は大勢いる。それは同時に、を妬ましく思う女で溢れ返る事になる。
「大丈夫よ、膝丸。そんな顔をしないで。友達の事は確かに残念だったけれど……、2人がいてくれたから平気。私の為に色々してくれたんだよね?ありがとう。お陰で大変な事にならずに済んだし」
「そうか……」
それ以上問いかけるのは野暮というものだ。が心の整理を付けたというなら、双子は黙るしかない。
は何だかんだ言って、髭切と膝丸を大切に思っている。それが強く伝わってきて、髭切も膝丸も温かい気持ちになった。
「だったら、今日はもう飲み直そう。僕達が背負って帰るから、は飲みたい分だけ飲んで良いよ」
「え?でも、2人だって飲みたいでしょう?今日は、2人に迷惑掛けちゃったし……」
「気にするな。俺達は、家でも一緒に飲める。そうだろう?何せ、俺達は、家族法ではいとこ同士であり、隣に住む幼馴染であり、血の繋がった姉弟なのだからな」
「あはははっ。そうだね……」
が嫌う特殊過ぎる血縁者の説明だったが、この時ばかりはも膝丸と一緒になって笑ってしまった。
「そうそう〜!じゃあ、の合コン木端微塵に粉砕大作戦の完遂を祝して、今夜は色々食べちゃおう〜」
「何その物騒な作戦名?!酷過ぎる!私の感動を返せ!!」
「一番の功労者は、あの会話を咄嗟に録音していた獅子王なのかもしれんがな」
「……今度獅子王に源氏パイでもプレゼントするわ」
「何だそのチョイス……?」
と髭切と膝丸。幼馴染兼いとこ同士兼遺伝子上の姉弟兼三つ子。
結婚出来る姉弟という、この奇妙な関係は、一生涯続く事になる。髭切も膝丸も、の事は諦めるつもりは毛頭無いので、今後もとの攻防は続くだろう。
(本当に……神様の悪戯ってやつなのかなぁ……)
は再びタブレットを操作し、双子の好きなおつまみを選びながら、諦めのような絆されているような、複雑な溜め息を吐いた。その表情は、どこか明るかった。