
突如、不思議な事が起きた。
ぎゅっと握られているあたしの手。その小指に、あの感触が全く感じられないのだ。そして、とても胸の内が軽い。すっと何かが抜け落ちてしまったように思える。何が起きたのかがわからない。理解出来なくて、でも何かが違うと確信したあたしの心は、激しく脈を打ち始めた。
「久々知……、今……いったい何をしたの?」
「何って?」
恐る恐る問いかけると、久々知はきょとんとしてしまうだけ。
久々知が何か出来るわけない。久々知には赤い糸が視えないのだから。
だとしたら、今のこの状況はいったい何?
「どうして……?な、ん……で……っ?」
そっと久々知があたしの手から離れたとき、その下にはあるはずの物が無かった。あれだけあたしを苦しめてきたその存在は、元から無かったみたいに跡形もなく消えてしまっていた。
赤い、糸。
が、無い。
「久々知、久々知……!」
「わ?!何だよ、どうしたんだ?」
あたしは縋る様に久々知の胸に飛び込んだ。傷が痛んだけれど、そんな事はどうでも良かった。
赤い糸が無くなり、あたしは急に不安になった。あれだけ消えてしまえと呪う勢いで願っていたのに、いざ消えてしまうとわけのわからない恐怖が襲ってくる。心が急に無防備になってしまった。どうしようもなく声が震え、肩が震え、久々知にしがみ付く事しか出来ない。
「落ち着け」
久々知はそっとあたしの背中を撫でてくれる。
「久々知……!」
あたしは久々知の胸に額を押し付け、口を開いた。とても怖いけれど、確かめなくてはならない。
「久々知は、あたしが……好き?今も、あたしを好きでいてくれていますか?」
赤い糸が消えてしまっても、気持ちは変わらない?
「好きだよ、誰より。……、、お前だけだ」
抱きしめられて感じるこの温もりが、真実を教えてくれる。
「兵助」
だから、あたしもそれに応えようと思う。応えても良いんだ。
「兵助、あたしにも……もう視えないよ……。兵助しか見えない……ッ!」
顔を上げてそう言った瞬間、兵助はあたしの意図に気付いた。そして、静かに瞳を閉じてあたしに優しく唇を重ねる。
もう言葉何ていらない。
この温もりしか、いらない。
喜びが伝われば良いと願いながら、あたしは深く深く唇を重ねた。
17盲目