
ドン、と強く両肩を正面から押されて少女の細い身体が大きく揺れた。そのまま耐えることができず、座布団から畳へと腰を着地させてしまう。
左肘と左手でどうにか背中を畳につけまいと支えるが、それさえも久々知は許さないといった具合に顔を近づけた。至近距離で見る彼の長い睫毛は、怒りと悲しみを織り交ぜて震えている。闇色の目を直視できず少女は思わず逸らしてしまった。
少女の行動にひゅっという息を飲む音が聞こえ、少女は『しまった』と思った。再び久々知を見ようと顔を上げれば、彼の睫毛は完全に閉じられていた。大きくて見た目よりゴツゴツとした掌が、少女の白い頬に押し当てられた。掌の熱さを感じて反射的に目を閉じた少女の唇は、久々知のそれで塞がれた。お互いの前髪が額に触れている。
少しかさついた唇の感触に、少女は大きく瞳を見開いた。
久々知との距離がゼロになっていること、初めて彼の唇に触れていること、いつの間にか彼が自分の股の間に膝を割り込めていること、全ての出来事が少女の心を激しく揺さぶった。
唯一自由な右手で彼の肩を押したが、全く効果がない。もっと力を入れるため呼吸をしようと口を薄っすら開いたとき、更なる変化が起きる。
「へいす―――んぅっ?!」
濡れた音と同時に、久々知の熱い舌が侵入してきた。少女の口内を、まるで探るように舌を動かしてくる。その度に、くちゅっという唾液が混ざる音が耳を打つ。歯列をなぞられると背筋がぞわぞわとした。
少女は普段と全く違う彼の態度に混乱していた。まさか、彼が自分をこんな風に乱雑に扱うとは思っていなかったのである。
「ん……ふっ……んん……!?」
少女の舌を見つけた久々知は、自分のそれと絡める。ぬるついた感触に、少女は目をぎゅっと瞑り、必死で熱から逃れようとした。けれども、抵抗すればするほど、重ねる角度を変えてさらに奥へ絡められてしまう。
呼吸をするのも苦しくなり、額に汗が滲む。久々知は求めることに必死で少女の苦しさなど二の次のようだ。
息さえも飲み込まれてしまうような激しい口付けに少女の頭はクラクラしてしまった。
久々知に音を立てて舌を吸われ、最後の力と言わんばかりに少女は右手で彼の肩を押した。そんな抵抗さえも、鍛えられた身体を持つ彼にとっては些細なものでしかない。邪魔だと言わんばかりに細い手を取ると、そのまま畳へと押し付けた。少女の身体を支えていた左肘も、ついに耐えきれず背中を畳につけてしまう。背中に伝わる振動で、一瞬痛んで眉を寄せる。
少女の豊かな髪が畳へと広がる。
ちゅるっ、という音と共にようやく唇が解放される。銀糸がつう……といやらしく2人を繋いでいた。
縋る様な目をしている久々知が自分を見下ろしている。今の少女と同じように呼吸を乱しており、薄く開いた口元から見える赤い舌が艶やかに濡れて光っているのがわかる。
「はぁ……はぁっ、もう、これ以上は……ッ」
力の入らない身を捩って覆いかぶさる久々知は、訴える少女の声を聞いて表情が一瞬の内に変わる。それは、ハッキリと伝わるほどの苛立ちだった。
「やめっ……」
少女の着物の合わせを無理やり引っ張ると、白い肌と鎖骨が露わになった。まだ日が高いせいで肌が更に白く輝く。晒された肌に空気が入り、温度差を感じて鳥肌が立った。
久々知は少女の肩を掴んで畳に押さえつけると、耳元に唇を寄せる。熱い吐息が首筋に当たり、細い肩が震えてしまう。
「そんなこと言われても、全然納得出来ない」
「……っ」
悲しそうでいつもより低い声が、少女の胸にまで響いてくる。ズキンと痛む身体の中心に目を細めた。
「納得なんか、出来ない……!」
『ずっと見てきたんだから』、と囁くと耳に舌を這わせた。
「や……?!」
大きく少女の肩が揺れて、より一層抵抗する力が増す。けれども、やはり久々知に押さえつけられていて身動きが取れない。
久々知は抵抗する少女に構うことなく耳朶を食み、味わうように甘噛みをする。舌で撫で上げるように舐めたり、舌を耳穴に捻じ込まれて少女の声が乱れる。直接聞こえてくる水音が、少女の羞恥心を高めていった。
ぬるっとした熱い舌の感触に少女の耳は赤く染まっていく。その色が首筋にまで達すると、今度は真っ白な首筋へと舌を這わせた。背筋がぞくぞくとして少女の喉が震えてしまう。
「止めて……!こんなこと……んっ、しても……はぁっ……傷つくだけ―――痛っ!?」
少女の言葉を遮るように、久々知は鎖骨に強く吸いついた。ちりっとした痛み。少女が顔を歪ませて肩を掴む指に力が入った。鎖骨から唇を離すと、鬱血した肌が赤く痕をつけていた。
彼もこのまま続ければ傷つくとわかっているのだろう。けれども今感じている大きな不安から逃れようとしているのだ。
失ってしまうという恐怖から。
「ふ……っん……ん、ふぁ……?!」
再び口付けをされて舌を絡められたかと思えば、着物の上から胸を撫でられる。久々知の大きな手が動く度に妙な感覚が走って身体が震える。唾液がその間もくちゅくちゅと音を立て、お互いの口内を行ったり来たりしていた。
「ん……っ」
くぐもった久々知の吐息。
熱い舌が少女の言わんとすること全てを飲み込ませ、久々知は深く口付けをしたまま汗ばんだ少女の肌に手を滑らせていった。肌は白から気づくと桜色に染まってしまっている。
少女は久々知の唇から逃れると、咎めるように声を出そうとしたが―――
「
」
久々知の掠れた声を聞いた途端、頭が真っ白になった。
正確には、その名前に少女は反応した。
大きく見張った瞳から、ついに一筋の涙が零れ落ちて畳に吸い込まれていく。
胸が締めつけられるように痛んで、少女は不安や悲しみといった黒い感情が入り混じり、何もわからなくなった。
強く抱きしめられ、久々知の熱を受け入れる。震える小さく華奢な手を背中に回すと、少女はまた堪え切れず涙を流した。
一筋の、光りを感じて思う。
『これで最後にしよう』、と。
01拒絶