第六夜 忘れられないあなた
が目覚めると、全身に嫌な汗を掻いていた。呼吸をするのも辛い。
ドクドクと脈打つ自分の心臓の音だけが響く真夜中、はガバッと勢い良く上半身を起こした。両手を広げ、ぎゅっと握り拳を作る。それでも小刻みに両手が震えて止まらない。
(今の夢は……?!)
夢の中で視た光景。見覚えの無い大きな建物があり、お揃いの忍装束を着た子供達がいた。入口と思われる門の前には、忍術学園と刻まれた看板が掲げられていた。あの場所は、5年生達が通う忍術学園だ。
忍術学園の生徒達に、何者かが凶刃が振り下ろしていった。悲鳴を上げて逃げ惑う生徒達を、犯人は嘲笑っていた。歓喜と凶器の入り混じった不協和音がおぞましい。生徒達は次々に赤く染まり、バタバタと地に転がっていく。
生徒達を庇う様に前に出た竹谷、久々知、雷蔵、三郎。凶刃が閃いて、血しぶきがパッと花のように散っていく。瞬く間に躯となって、温かさが血液と一緒に零れ出ていく。
動くものが全ていなくなるまで、凶刃は振るわれた。血の池の中心には、嗤う犯人だけが立っていた。
(嘘でしょう?八左ヱ門くん、兵助くん、雷蔵くん、三郎くん……!!)
これがただの夢であれば、どんなに良かっただろう。
は直感している。
アレが予知夢である事を。
そして、あの光景が必ず現実になる事を。
(そんなの嫌っ!)
大きく首を横に振り、髪を乱す。
稲葉村のようになってしまったらと考えるだけで、は恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
これまで予知夢の出来事は必ず現実になった。だが、今回ばかりは何に換えても回避させなければならない。大切な人達を護りたい。絶対に。
(―――犯人は!?犯人が誰なのかわかれば……!)
殺人犯が何者なのか思い出せれば、予知を回避出来るかもしれない。
は先ほどの夢をもう1度思い出すために目を閉じた。忍術学園で凶刃を振るっていた人物。しかし、どうしても犯人の姿を思い出す事が出来ない。おかしい。予知夢であれば、鮮明に思い出す事が出来ていたはずだ。犯人の特徴は全て霞がかかったようにわからない。
(何で?!どうして……?!こんな事、今まで無かったのに!)
苛立ちと焦りでは息苦しくなった。ぐっしょりと汗を掻いてしまったせいか、喉が異様に乾く。
は喉を潤すために井戸へ向かう事にした。月の光が弱い中、はフラフラと廊下を進んだ。
幸いにも誰にも出会わず井戸まで辿り着けた。もし誰かに出会ってしまったら、それこそどんな顔をして接すれば良いのかわからない。に余裕など無かった。
井戸から冷えた水を汲み上げ、は一気に飲み干した。動揺して火照った身体が冷えていく。少しは動揺を抑え込む事が出来た。
(誰があんな酷い事を……。稲葉村での事だって解決していないのに……。これからどうしよう……)
あの凄惨な予知夢を、5年生に話せるだろうか?
話したところで、いったい自分に何が出来る?
何をすれば良い?
どうしたら全員を助けられる?
(良い方法が、何も浮かばない……。これまで全部予知夢は現実になってしまった。皆の事、護りたいのに……っ)
十六夜だった頃も、稲葉村での事も、全て予知夢で視てきた。
このままでは、5年生達が何者かに殺されてしまう。忍術学園の生徒達も皆殺しだ。
泣いたところでどうにもならないのだが、目頭が熱くなり、涙が今にも零れてしまいそうだった。
「顔色が悪いですよ」
「え?!」
風の音の中に、幼い声が響いた。
驚いてが顔を上げると、井戸の淵に着物を着た小柄な少女が座っていた。歳は15歳くらいだろうか。美しいというより、愛らしいという表現が似合う。しかし、今宵の月のように儚げだ。形の良い眉は下がり、悲しそうにを見ていた。
突然少女が現れて、は混乱した。それ以上に驚いたのが、少女の姿だ。体が透けて、向こう側が見えているのだ。
「まさか、ゆっ、幽霊?!」
大きな声を出すと、少女はしっ!と人差し指を立てて諫めた。ハッとしては両手で口元を抑えた。
少女は腰を上げて恭しく一礼をした。
「突然ごめんなさい。わたしは満。遥か昔に月陰国の城で侍女をしていました。今はこの世を彷徨う霊として漂う存在です」
「やっぱり幽霊だ……」
半透明の身体が揺らめいている。幽霊とは恐ろしいものだと認識しているが、律儀にも自己紹介をしてくる満には恐怖を感じない。
は困惑しながらも、思い切って声を掛けてみた。
「あの、満さん……」
「どうぞ、私の事は満と呼んでください」
「それじゃあ満ちゃん、私に何か用事でもあるのかな……?」
「実は、あなたがわたしの住処に来たから憑いてきたのです」
「えっ?!住処ってどこ?」
「はいっ!廃城に来たでしょう?わたしはあそこにいました。ときどき肝試し気分でやって来る人がいるのですが、あなた達は随分と賑やかでしたね」
「あ……、それは、ごめんなさい……」
もしかすると、住処を荒らした事に腹を立てて憑いてきたのかもしれない。そう思うと、少女の見た目をしていても恐ろしいものに見えてくる。
少女は首を横に振って、の想像を否定した。
「わたしは別に怒っていないです。むしろ、あなた達にお礼を言いたいくらいですから」
「お礼?」
「……わたしは、月陰国が赤眼病で内部争いを起こしているときの事を知っています。わたしはその争いに巻き込まれて命を落としてしまいました。本当にとても醜くて、増悪が渦巻く恐ろしい争いでした……。わたしは、ずっと月陰国と光陽国が平和になる事を望んでいたのです。2度とあんな事が起きないように。あなたは2つの国の争いを止めてくれた。だから、2つの国を平和に導いてくれたあなたにお礼を申し上げたかった。これは、わたしだけじゃなくて、沢山の人々が望んでいた事です。本当にありがとうございました」
「お礼だなんてそんな……」
柔和な微笑みを浮かべている満だったが、今度は真剣な顔つきに変わった。
「あなた、何か困っている事があるのではないですか?わたしで良ければ手助けをします。いえ、させてください!」
「えっ?」
「ずっとあなたを見ていたのですが、すごく悩んでいるみたいでした。顔色も悪いですよ。その悩みは、他の人には言い難い事なんでしょう?」
「それは、そうだけれど……」
が視た夢の事は、5年生にはとても言えない。誰かに相談して、それが彼等の耳に入ってしまったらと思うと、は怖かった。自分と同じ絶望を彼等に味合わせたくない。
「わたしだったら、他の人には視えない。わたしほど適任な相談相手はいないんじゃないでしょうか?きっとわたしなら力になれます」
「……確かにそうだね。だったら、満ちゃん、私に協力して欲しい。私は、皆の事を護りたいの。絶対に誰も失いたくないから!」
「決まりですね!頑張ってください。わたし、応援しています!わたしは夜にしか姿を現す事が出来ないので、それに注意してくださいね」
「うん、わかった。ありがとう、満ちゃん」
は満に自分にある予知夢の力、稲葉村での事、忍術学園でこれから起きる惨劇について話をした。満は神妙な顔つきで話を黙って聞いてくれた。
「―――予知夢。鬼姫としての力を受け継いでしまったのですね。それに、稲葉村での出来事……。朔姫様と何か関係があるかもしれません。鬼になった朔姫様は、本当に尋常じゃない力を持っておられましたので……」
「えっ?!」
この満の言いようは、まるで朔を知っているかのようだ。
は尋ねるか迷ったが、頭に浮かんだ疑問を言葉にした。
「……満ちゃん、もしかして、……朔姫に殺されたの?」
「はい。あの日、わたしは城にいました。廊下で朔姫様を見た瞬間、目の前が真っ暗になり、そのまま息絶えてしまったのです。あのときは何が起きたのかわかりませんでしたが……。朔姫様の人間技とは思えない殺し方からすれば、一瞬で死ねたのは良かったのかもしれません」
「…………」
鬼になった朔は、相手の腕をや足をもぎ取ってバラバラにしている。そんな殺し方をされるくらいなら、いっその事一瞬で終わりにしてくれた方がマシだろう。
もし忍術学園を襲う犯人が蘇った初代鬼姫である朔だったら……。想像しただけで気がおかしくなってくる。
「このままだと、また恐ろしい事が起きて、5年生の皆が殺されてしまう……。どうにかして、私は皆を護りたい」
「とりあえず、稲葉村の事はとりあえず置いておくとして、忍術学園へ行くのはどうでしょうか?」
「忍術学園へ?」
「そうです。わたしにも解決方法はわかりませんが、忍術学園で起きる事件なら、忍術学園へ行って自分で調べたら良いと思います。ここでじっと悩んでいるよりもずっと良いです!」
一瞬、の脳裏には稲葉村で何も出来なかったときの感情が蘇ってきた。しかし、奥歯をぐっと噛んで耐える。
「……そうだよね。満ちゃんの言うとおり、ここでうじうじしてても仕方ない。稲葉村のときみたいに、また現場に行けば良い。また、何も出来ないかもしれないなんて、怖がっている場合じゃないよね。私しか、予知夢を止められる人がいないんだから。それなら、私がやるしかない!」
「そのとおりです!」
満の言葉に背中を押され、は気持ちを新たに再び動き出す事を決めた。
万が一朔が蘇って祟りを起こしているのであれば、朔を知る満が頼りになるだろう。
何より、この窮地を1人で立ち向かうのは心もとないと思っていたところだ。幽霊だろうと、大切な人達を助けられるなら何でも良い。
(……あれ?そういえば、兵助くんが廃城で声を掛けられた女の子って、もしかしてこの子?)
久々知は廃城で少女の幽霊と思われる人物と出会っていて、しかも謎の文も渡されていた事を思い出した。久々知の言っていた少女とは、満の事なのではないか?
それについて聞こうとしたとき、こちらへ走って来る複数の足音が聞こえてきた。
「さんっ!」
「兵助くん?それに、皆も……」
現れたのは夜着に上着を引っ掛けた5年生達だった。三郎が持っている灯りのお陰で少し周りが見えやすくなる。
竹谷に両肩を強めに掴まれ、は何事かと思ってしまう。
「八左ヱ門くん、どうしたの?」
「こそ、こんなところで何してるんだよ!」
「え、えっと……」
酷く慌てた様子の竹谷に、は目を泳がせた。流石に幽霊と話をしていましたなんて言えない。
「こんな夜に1人で井戸の傍に立つのは危ないだろ?!」
「そうですよさん。この前はオレが一緒だったから良かったものの、ここの井戸は相当深いですから、1人で行かないでください」
「姫サン、灯りも持っていないじゃないか。これじゃ周りが見えなくて危ないだろう」
「喉が渇いたなら、直ぐに僕達を呼んでください。一緒に行きますから」
畳み掛けるように心配されて、は呆気に取られてしまう。だが、どうしてだろう。胸の奥が温かくなる。この小さな灯りのように、闇の中で光を見つけたような気がした。
自分の事で必死になってくれる人達がいる。心から心配をして、心から護りたいと思ってくれる人達がいる。
(私も、皆を護りたい)
の決意が強くなった瞬間だ。
「心配掛けてごめんね!今度は大丈夫だよ」
今度は大丈夫。絶対に護ってみせる。
「約束するから」
彼等に誓う。
の強い光が宿った瞳を前に、三郎と雷蔵は少し首を傾げる。
「どうかしたのか?姫サン、昼間とはまるで違う目をしているぞ」
「正直、もっと落ち込んでいるかと思っていましたが、もう大丈夫なんですか?無理していませんか……?」
「本当に大丈夫。稲葉村での事は悲しかったし、辛かった。でも、立ち止まってはいられないって気づいたの。下ばかり向いていられない。私なりの方法で、これ以上の犠牲は出させない」
「〜、その言い方だとまた同じ事が起きるって言ってるみたいだぞ?」
「え……?あっ、そういうわけじゃなくて……!」
は予知夢でわかっているが、竹谷達はまだ忍術学園で起きる出来事を知らない。
は口が滑った事を誤魔化そうと、周りに視線を泳がせてハッとする。そういえば、満の姿がどこにも見当たらない。まるで誰もいなかったかのようだ。
(もしかして、さっきのは夢……?)
そう思いかけたとき、久々知が『そういえば……』と何かを思い出したように口を開いた。
「さんが誰かと話している声が聞こえてきて、それでここに来たのですが……、誰もいませんね」
「えっ……?」
どうやら満の存在は夢ではなかったらしい。
(満ちゃん……不思議な幽霊の子)
竹谷はぎょっとして震え上がる。
「おいおい〜!誰かって誰だよ?!怖い事言うなよっ!」
「誰って……、多分女の子の声だったと思う」
「はぁ?!まさか、お前が廃城で会ったとかいう女の子か?!」
(うっ!八左ヱ門くん、名推理だな……)
これ以上話を発展させてしまうのは良く無いと思い、は話を逸らした。
「あのね、皆にお願いしたい事があるんだけど―――」
「皆おかえり〜!」
忍術学園の門の前で、小松田が入門票を片手に5年生達をのんびりとした笑顔で出迎えてくれた。
「小松田さんただいま〜」
「ただいま戻りました」
「雲行きが怪しかったので、雨が降る前に帰ってこれて良かったな」
「そうだね」
空を見上げる三郎に続き、雷蔵が空を見上げる。どんよりとした雲が空を覆い隠していた。今にも雨が降ってきそうな雰囲気だ。
小松田は5年生達の後ろにいるに声を掛けた。
「おかえり、5年生の皆!この子がお客さんのさんだね?」
「はい、です。お世話になります」
「入門票にサインを!」
「あ、はい」
はズイッと差し出された入門票に名前をサインした。
そう、は忍術学園へやって来た。5年生達に願い出て、忍術学園で暫く滞在出来るようにしてもらったのだ。
彦兵衛に話したところ、少々戸惑われてしまった。彦兵衛はを客人ではなく姫として迎え入れたいと考えていたからである。はその申し出を丁重に断った。姫としての器ではないし、ただの女子高生である自分が姫だなんて想像も出来なかったからだ。今回、忍術学園に来たのはなかなか引き下がらない彦兵衛から逃れるためでもある。
忍術学園にを迎え入れる許可を得るために文を送ったところ、学園長から快く了承された。
(この看板、夢で視た……)
やはりが見たのは予知夢のようだ。門をくぐって忍術学園の敷地へ入って行く。
「の事は忍術学園に招待したいと思ってはいたけれど、光陽国がもう少し落ち着いてからにしようって話してたんだよ」
「姫サンも忍術学園に来たいと思っていてくれたとはな」
「皆が過ごしているところだからね。実は前から興味があったんだ」
もっともらしい返事をしたが、の真の目的はそれではない。
(忍術学園で恐ろしい事が起きる前に、どうにかしないと。予知夢を現実にさせない!)
は予知夢の現実化を阻止するため、人知れず調査をする事にしたのだ。今のところ5年生はの目的に気が付いていない。
廊下を進んで行くと、忍術学園の至るところで子供の声が聞こえてきた。今は授業中のようで、教師であろう大人の声も混じっている。
「授業が終わってから他の生徒達にも紹介しますね。ところでさん、疲れていませんか?」
「大丈夫だよ、兵助くん。体力には自信があるから。荷物を置いたら、学園長先生にご挨拶をしたいな」
「わかりました」
「ところでよ、の部屋ってどこになったんだ?」
「学園長先生の文には、姫サンの部屋は空いているところならどこでも構わないって書いてあるぞ」
「何?!あ、確か5年生長屋の隣の部屋、空いてたよな?」
「えっ?さんは女性なんだから、流石に僕達の隣の部屋はダメでしょ?あっ、でも、僕達が近くにいた方が何かと行き来が近くて便利?でも……、うーん……」
「雷蔵がまた迷いだしたじゃないか。つか、ハチ。隣の空き部屋ってお前の部屋の隣じゃないか」
「そうだけど?」
ジト目で三郎がニヤニヤすると、竹谷が首を傾げる。
「スケベ」
「はっ、はぁ?!」
兵助の言い放った爆弾は、竹谷の羞恥心を爆破する。竹谷は顔を真っ赤に染めて、それから今度は青くしての方に勢い良く振り向いた。
「、誤解だからなっ!オレは別にっ、すっ、スケベな事なんて考えてねぇし!」
「あははは、八左ヱ門くん気にしすぎだよ」
「……その反応、それはそれで凹む」
「?」
「さんの部屋は、オレ達の長屋からちょっと離れたところにある客室にしてもらいますので、大丈夫です」
「ありがとう。お願いします」
「残念だったな〜ハチ!」
「おいっ!三郎!」
キーキー騒ぎ出した竹谷を三郎がからかい、はくすくすと笑みを零す。
内心は5年生達のいる長屋ではなくて安心した。単独で行動するとき、5年生達の目につくところにはいたくないからだ。
(皆ごめんね……!何だか悪い事するみたいで嫌だなぁ……)
は案内された部屋で背負っていた荷物を下ろし、各部屋の案内を受けながら学園長のいる庵へ向かった。
学園長の庵の前まで来ると、5年生達は一斉に姿勢を正した。も驚きつつ背筋を伸ばした。
全員を代表して三郎が良く通る声で呼び掛けた。
「学園長先生、5年生一同、ただいま戻りました」
「入りなさい」
上座に座っていたのは、小柄なおかっぱ頭の老人だった。にこにこと人の良い笑みを浮かべている。
「お〜、良く帰ったのう。そこの娘さんが殿じゃな?わしは忍術学園の学園長、大川平次渦正じゃ」
「初めまして!です。5年生の皆さんと仲良くさせていただいています。こちらで暫くお世話になります」
「ここまでお疲れ様じゃった。まぁ楽にしなさい」
「はい、ありがとうございます」
はぺこっと頭を下げた。緊張していた肩の力が抜ける。
(学園長先生って、もっと怖い感じの人かと思ってたけれど、普通のおじいちゃんみたいだ)
忍術学園へ行く道中、学園長について5年生達から話を少し聞いていた。若い頃は天才忍者として活躍していて、多くの人脈を持つ。の世界で言うところのカリスマである。
「光陽国での忍務では、こちらこそ大変世話になったのう。護衛をするはずが、5年生や6年生を助けてくれたと聞いておる。勇気のある大した娘さんじゃな」
「えっ?!」
驚いてが5年生達を見れば、好意的な笑顔を浮かべている。どうやら忍術学園にもの活躍が報告されているようだ。は照れたようなくすぐったい気持ちになって、どんな顔をしたら良いのかわからなくなった。
「私は、何もしていないです。きっと、間違った事もしたと思います。でも、そんな風に受け止めてもらえたなら……嬉しいです」
「なるほど、素直で心優しい娘さんのようじゃな。鉢屋三郎、不破雷蔵、久々知兵助、竹谷八左ヱ門、しっかりと娘さんをサポートするように」
「「「はい!」」」
しっかりとした声で5年生達は返事をした。
はここでずっと気になっていた事を学園長に尋ねた。
「あの、月陰国の忍者が忍術学園に攻めてきたと聞きました」
「確かに、月陰国の忍者達が忍術学園を襲撃してきた。6年生をはじめ、上級生は下級生を護るために奮闘した。死者は出なかったものの、6年生は暗示によって操られ、上級生の1人に重傷者が出てしまった」
「「「?!」」」
この言葉に驚いたのはではなく、その場にいた5年生達だ。
「…………」
厳しい学園長の言葉には押し黙るしかない。
月陰国と光陽国の問題に忍術学園は大きく巻き込まれてしまった。
光陽国が忍術学園に護衛を依頼し、忍術学園はそれに応じた。護衛忍務は危険が伴う事を重々わかっている。に責任は無いことは明白だ。しかし、それでもは気になっていた。5年生に忍術学園の様子を聞く事も出来たが、彼等はきっとを慰め、優しい言葉を掛けてくれるだろう。それをは良しとしなかった。だから、忍術学園の代表である学園長に率直な意見を聞きたかったのだ。
「学園長先生っ!」
雷蔵がを庇うように叫んだ。学園長が言わんとしている事を理解していたからだ。
学園長はの想像する言葉とは違う返答をした。
「殿、わしらは忍じゃ。戦の世を生き抜くための術をこの学園で教えている。そのため、様々な情報もここには集まってきておる。忍術学園が襲撃される事も予想出来る事じゃ。敵の侵入を許し、重傷者を出してしまったのはこちらの落ち度。単純に殿のせいだというわけではない。それに、5年生からの報告書には、殿がいかに5年生や6年生のために動いてくれたのかが書かれておった。わしはとても感謝しておるよ」
「ありがとうございます……。そう言っていただけると、私も心が軽くなります……」
学園長の心から染みる言葉を貰えて、は目頭を熱くした。5年生達もホッと一安心してこの優しい空間を見守る。
は目に浮かんだ涙を拭い、しっかりと前を見据えた。
「私、重傷を負った生徒さんのお見舞いをしたいです」
「ああ、それなら丁度良い。今こちらへ紹介しようと思って呼んでおいたんじゃ」
学園長が『こっちじゃこっちじゃ』と声を掛ければ、の背後で気配が感じられた。
「紹介しよう。久々知兵助と同じ5年い組で学級委員長をしておる―――」
はゆっくりと振り返った。
「尾浜勘右衛門と申します」
廊下に姿勢を伸ばして座っている忍装束の少年を見て、は目を見張った。驚きのあまり喉奥がカラカラに干上がって震える。の周りだけ、凍り付いたように時が止まってしまう。
雷が轟音と共に閃光を放ち、雨が激しく突き刺さるように地面を打ち始めた。
尾浜勘右衛門と名乗った少年。
彼の姿は、にとって生涯忘れられない人物―――
「どうして……、何で、勘ちゃんが……」
亡くなったはずの幼馴染と、同じ顔をしていた。