宵の口の空を眺めていると、背後に気配を感じて振り返る。そこには、闇に溶けてしまいそうな忍装束を纏った男が跪いていた。
真っ赤な扇子を広げ指示を送るように忍者へ差し出すと、軽く一礼して口元を覆う頭巾をずり下げる。そこにはを襲った人攫いの1人、不精髭の顔があった。
「ご報告致します。鬼姫―――十六夜姫との接触に成功しました。新月丸様がおっしゃった通り、十六夜姫は城下におりました」
「そうですか。ということは、護衛の忍にも会えたというわけですね?」
「はっ!護衛は4人。予想通りまだ子供で、修業中の身であるかと……」
「やはり忍術学園の生徒…。実力はいかほどでしたか?」
「私が見たところ、その辺にいる夜盗や人攫いでは手も足も出ないでしょう。学園でも優秀な方の子供です」
『子供……』と呟くと新月丸は口元を弧にした。鮮血のような赤い瞳がギラリと光り、部下でさえビクッと震えてしまう。ジジッと音を立てて蝋燭が揺れた。
「子供にやられたんですか、その腕は?」
「……申し訳ありません……ッ」
腕を怪我していることは、完璧に隠しているつもりだった。けれども、新月丸の前では簡単に見破られてしまう。
彼は血の匂いに敏感だ。
「十六夜はどうしていましたか?」
「私を殺そうとした護衛がいたのですが、その護衛から私を庇いました。……今でも信じられません」
敵であるはずの自分を庇った。
否、庇ったのは自分ではなく、小太刀を振りかざした護衛の方だったのだろう。
「相変わらずのようですね……」
「何かおっしゃいましたか…?」
「何でも無いですよ。それから……何か変化はありましたか?」
「はい。十六夜姫の目が赤く染まっていました。それから―――」
忍者は彼女の背中を見たこと、その背中にあったあるものについて話した。
新月丸は話を聞いて、少し考える仕草を見せる。
「さて、そろそろ急ぐ必要がありますね。あなたはもう用済みですから―――」
「?!」
忍者が振り返る前に、立ち上がる前に、背中から腹部へ駆け抜けるような痛みを感じた。胃から込み上げてくるものを吐き出せば、それは真っ赤であった。
「ぐは……ッ!しんげつ、まる、さ……」
倒れた忍者の後ろには、血で染まった刀を振って血を飛ばす別の忍者がいた。刺された忍者は既に絶命している。血の匂いが部屋に充満し、新月丸は嬉しそうに舌なめずりをした。その様子は妖艶で、恐ろしさを孕んでいる。
新月丸は部下の死を特に気に留める様子はなく、再び夜空を見上げた。
「私の可愛い十六夜の肌を見たのですから、当然ですよ」
新月丸の笑う口元からは鋭い牙が見え隠れしていた。
「さぁ、行動開始です。皆に伝えなさい」
「はっ!!」
返事を1つ残し、忍者は闇に溶けていった。
新月丸はこの赤に染まる部屋に1人残され、不敵に笑う。そして月光浴でもするかのように、着ていた直垂を肌蹴させた。
月に照らされる新月丸の肌は程よく筋肉がついている。
そしてその背中には
「約束は守ってもらいますよ、十六夜……」
と同じく、とぐろを巻く蛇のような蒼い模様が浮き上がっていた。
第七夜 傷つける者と傷つけられる者