「溺れる〜〜!?」

と叫んでガバッと起き上がった。息苦しさで思わず硬くなる。自分の上にかかっていた布団が勢いあまってめくれ上がってしまった。
しばらくの間拳を握ったままで静止していたが、ふと目の前の光景が先ほどと違うことに気づく。

「あれ……?」

少女はつい先ほどまでどこかの池の中に落ちて溺れていたのだ。そのため思わず叫んでしまったというわけだ。
しかし、叫んだ途端世界は全く別のものに変わってしまった。水で歪んだ視界はすっきりとし、ふかふかとした上質の掛け布団。そしてどこか見覚えのある、けれども普段は見慣れないはずの和室に少女は寝かされていた。ほんのりと香る井草の匂いに少女は目を少し細めた。
どうやら先ほどのことは夢の中の出来事のようだ。

「って……、ぼんやりしている場合じゃなかった。ここは……もしかして光陽国の城の中?」

少女が首を左右に動かして誰もいない室内を確認していると、視界の端に色素の薄い髪が一瞬見えた。そして、今度こそ少女の動きは完全にピタッと止まったのである。

「……え?えぇ??」

少女は自分の髪に恐る恐る触れた。それは真っ直ぐな闇色の髪ではなく、くるんと癖のあるミルクティー色の短い髪だ。
続いて少女は下半身を隠していた掛け布団を全てめくり上げた。胸には黒いリボンとセーラー、下半身にはリボンとお揃いの色をしたミニスカート。枕元を見れば、自分の紺色のソックスと靴が置かれているではないか。
半袖から伸びる腕は、日の下に出たことがないような白い色ではなく、ほんのりと日に焼けた色をしている。あんなに華奢で細かった腕だったが、今は程よい筋肉がついてしっかりとした弾力がある。
鏡で顔を見ずとも理解することができる。





自分の身体、だ。





「うそ……、戻ってる、私の身体が戻ってる!!あれ?!でもやっぱり戻ってない!?」

そう叫んだ声も、鈴のような愛らしい声ではなく、凛とした大人に近づいている声だった。
本来あるべき姿にいつの間にか戻って、少女は混乱した。全く状況が飲み込めない。
身体は戻っているが、この場所はどう見ても少女が良く知る自分の世界ではない。

(いったい何がどうなって……?!だって、私の記憶が正しければ、私は死んだはずじゃ……)

大切な友人たちの命を護るため、そして、身体の持ち主である十六夜とその兄の新月丸の願いを聞き届けるために、死を受け入れた。ずっと魘されてきた夢の通りになるよう、雷蔵が向けた刀の切っ先を掴んで胸に突き立てたはずだ。

(胸が焼けつくみたいに熱くなって、痛んで、目の前が真っ暗になって、雷でも落ちた後みたいに……)

そこからは何も記憶が無い。心臓を貫いたのだから、当然記憶もそこで途切れている。そしてそれは永遠に続くはずだった。
でも、少女は生きている。自分の身体で息をしている。
少女は頭がショートしてしまうのではないかと思い、両手でそれを抱える。

(……正直あそこで死ねば元の世界に戻れるかとも思っていたけれど、これは予想外としか言いようがないな)

少女が最も恐れていたことの1つは、戦国時代という血で血を洗うような戦いが起きている世界で自分が生きていけないということ。今までは、十六夜という一国の姫の立場を借りていたから生き延びられていたようなものだ。ただの女子高生に過ぎない自分に刀を振るわれれば、一瞬で首を刈り取られるだろう。
少女の胸に酷い罪悪感と絶望感が打ち寄せる。どうしようもない笑みが零れた。

(私を十六夜姫だと思って必死に護ってくれていたのに……)

少女の大切な友人たちは、必死で自分を護ろうと動いてくれた。彼らだけではない。この城の者たち全員が少女を十六夜だと思っていた。
けれどそれは幻。少女という魂を受けた脱け殻だったのである。

(あー……もう本当にどうしよう?きっと見つかったら大変なことになるよなぁ……)

今の少女はどこからどう見ても怪しい。この城どころか、この世界では見かけない風貌をしている。おまけに、国の重要な建物である城の中にいるのだ。本人に覚えがなくとも、この場所にいることはかなりの重罪に違いない。

「うん、とりあえず、逃げよう」

たくさんまだ考えなくてはならないことがあったが、少女はとにかく自分がここにいてはいけないと思い、布団から出た。素足で畳の上に立つと、独特の柔らかさが足裏から伝わってくる。
城の構造は彦兵衛から説明されていたため、だいたいの場所は理解できている。城内にいる人間たちの目を盗めば、どうにか脱出できそうだ。

(それにしても静かだ。姫は死んでしまったわけだし、もう少し騒がしくてもおかしくないのに……)

少女の脳裏に友人たちの顔が浮かんできた。もう1度一緒に遊べるときが来るなら、どれだけ幸せだろう。
少女は襖の前に立つ。

(誰にも会いませんように……)

襖を開けようとしたそのとき、少女が何もしていないにも関わらず勝手に襖が開いた。襖の向こうには、臙脂色の小袖を着た侍女が、掃除道具を持って立っているではないか。少女との距離はわずか一歩というところである。20代と思われる侍女は、奇妙な衣服を着た少女を見て目を真ん丸にして固まっている。

「あは……、ど、どうも……お邪魔してます」

少女はヤケクソになってぎこちなく笑顔を見せたが、かえって相手を刺激してしまったらしい。侍女は持っていた掃除道具を全て床に落としてしまい、大きく息を吸い込んで叫んだ。

「きゃああああああ〜〜〜!?!?!誰か来てえええええええーーー!!!!!!」
「やっぱりそうなりますよねーッ!?」

少女は失神してしまいそうなくらい絶叫する侍女の横をすり抜けて、広く長く続いている廊下を駆けだした。
背後からは侍女の叫び声を聞いて駆け付けたと思われる衛兵の足音が乱暴に響いた。少女は振り向きもしないでそのまま全速力で走った。運動部で鍛えた足をこんなところで活かすことになるとは思いもしなかった。
















城内は突然の賊侵入で大騒ぎになってしまった。城の主の十六夜が亡くなったという知らせを聞いていたため、特に城の者たちは国を良くしていこうと決意したばかりであった。その分だけさらに警護の者たちの武器を握る手は強くなる。

「曲者はいずこかー!?」
「早く見つけ出せ!」
「捕えろー!!」

衛兵たちの中に混じって忍たまの5年生たちも曲者を探していた。というか、もう既に曲者がいったい誰なのか見当がついており、急いでその人物が眠っていた部屋へ入った。しかし、既にもぬけの殻で布団が置いてあるだけである。
三郎がこの状況に舌打ちする。

「ちッ!起きたのか……」
「やっぱり誰か傍にいた方が良かったな。今言っても遅いけれど……」

雷蔵もまたこの失態に眉を寄せる。

「さっさとあのじいさんに報告すれば良かったんだよ!」
「でもその機会がわからなかったよな……。とにかく早く探し出さないと―――」
「いたぞーー!!あそこだ!!」
「「「?!」」」

庭を警護していた男が槍を片手に上を見上げて叫んでいる。4人が庭に出て同じように上を見上げれば、遥か上空、城の屋根瓦の上に黒と白のセーラー服を着た少女がいるのが見える。素足のままで屋根を伝って登っていくではないか。
4人は急いで同じように屋根へと人馬で登り、少女の後を追いかけた。
細い身体の割に少女は度胸と力があるらしく、どんどん上に登っていってしまう。ついに1番上まで登りきってしまうと、少女は屋根飾りである金色の擬宝珠に手をかけて足を止めた。冷たい瓦の感触を感じながら風を受ければ、色素の薄い髪がそれに合わせて乱れた。
青い空がとても近い。

「ふぅ……。はぁ、ここまで登ればどうにか―――」
「なるわけないだろ!!」

背後から怒号が聞こえ、少女はギシッと固まってしまう。バツが悪そうにゆっくりと振り向けば、そこにはぜぇはぁ言っている4人の友人たちがいた。
少女は薄茶色の瞳を見開いたままで、怒鳴った竹谷を見つめる。プリーツスカートの裾が太ももを打つようにはためいた。
8つの目がじっと捕らえるように少女を見つめているため、少女は視線を逸らしたくても逸らせない。彼らの目は、戦っているときと同じ真剣そのものである。

(うわ……、最悪のシチュエーション……)

よりにもよって、この姿で彼らに出会ってしまうとは。思わず顔がげんなりとしてしまう。正直意識が遠のいてしまいそうだった。
一定の距離は保ちつつ、少女は考える。

(忍務は十六夜姫が死んでしまったから終わったはずだよね?何でここに……?)

そう聞きたくても聞けない。今の少女は彼らとは友人でも何でもないのだから。
少女はついっと自分の首に手を当てる。その癖を見て、4人の顔が強張った。見覚えのある癖を見せつけられ、もやもやは確信に変わっていく。
何かを言わなければ、と思い、少女は口を開いた。

「あの―――」
「ここへ貴女を運んだのは我々です」

少女が話す前に久々知がそう言った。少女と同じように彼の長い黒髪も風に撫でられて揺れている。

「貴女は、十六夜姫の亡骸が砂に変わって消えたとき、その砂の下から現れました」
「!?」

新月丸と共に心臓を貫いた十六夜は、赤眼病患者の特徴として死後身体が砂になった。言いようのない絶望がその場を包んだが、その砂が風となって消え去った後に見たこともない服を着た少女が眠っていた。
十六夜とは全く異なる顔つきをしている少女に5年生たちは戸惑った。

「突然の事でとても戸惑いましたが、オレたちは十六夜姫とあなたの繋がりを感じずにはいられなかった。だって……もう、オレたちにはそれしか残っていないから」

久々知は少女を消えてしまった十六夜と重ねているようで、苦しそうに笑う。歪んだ瞳からは酷い悲しみを感じた。

「僕たちは報告も兼ねてあなたを光陽国の城へ連れ帰った。まさかこんなにも早く目覚めるとは思っていなくて、こんなことになってしまいましたが……」

そう言って雷蔵がチラッと城の下を見る。つられた少女も城の下の方を見ると、自分たちがいるこの屋根を見上げて衛兵たちが騒いでいる。

「彦兵衛のじいさんが言ってたんだ。姫は、病気で死ぬ間際に『異国の服を着た娘が、救世主として2つの国の争いを止めるだろう』よ予言したって。でも、その子は現れなかった……って。でも、オレにはそうは思えない。思えないんだ!」

左右に激しく首を振り、竹谷はまた少女を直視する。

「私たちは、これまで何度か姫サンの言葉に引っかかりを感じていた。そのときは流してしまったけれど、やっぱりおかしいところがある。私が姫サンの変装を見せたときもそうだった」





すごく似ているけど、すごく似ていないね。





「なぁ……?どうしてあのときそんなことを言ったんだ、十六夜の姫サン?」





しんと静まった空気が流れる。
少女のことを、三郎は【十六夜】と呼んだ。もうこれ以上言わなくてもわかるだろう?、と問いかけられているかのように少女は感じた。
心臓を鷲掴みにされてしまったような気がした。

「……っ」

少女の沈黙を肯定と受け取った竹谷が叫んだ。怒った声色が空にも轟く。

「どうして……、どうして何も言ってくれなかったんだよ!?ずっと姫の姿で、姫の代わりに傷ついて、それで死ぬなんて……そんなの―――」
「だったら、どうすれば良かったって言うの?!」

少女はキッと十六夜とは違う本来の声で叫んだ。

「目が覚めたら全然違う人間の身体で、全く違う世界で、何もかもが違っていて……。何度も殺される夢を視た。しかもそれが予知夢で……、絶対に運命は変えられない。私を夢の中で何度も殺していたのは、三郎くん、もしくは雷蔵くんだったんだよ……」
「そんな夢を……?!」

ついに明かされた十六夜の悪夢の内容に4人の顔が強張った。特に雷蔵と三郎の表情が険しくなる。

「だから最初に私を見たとき、あんなに顔色が悪かったのか……」

三郎は最初に十六夜と出会ったときのことを思い出した。
少女は、あのときと同じような青い顔で言った。

「いつ殺されるんだろうって、なぜ2人は私を殺すんだろうって……ずっと思っていた。私を護っているのは姫の権力しかなくて、ずっと怯えていた。だから黙っていたの。実際は私が私を殺す夢だったのに、必死で私を十六夜姫だと思って護ってくれていた皆のことを疑っていたのよ!!私は、そういう女なの!!自分が傷つくのが怖かったから!!だからずっと黙っていたのよ!!」

今まで心の内に溜め込んでいた感情を爆発させたかのように、少女は声を荒げた。ブルブルと胸元で握られている拳が興奮のあまり震えている。

(姫様のいた国は、世界は……もっと平和だったとおっしゃっていた。だからとても僕たちが怖かったに違いない……)

震えているあの手を握って、『大丈夫だよ』と声をかけてあげたかった。けれども、今の少女は全身で彼ら4人を拒絶している。恐らく自分たちよりも年上だと思われるのだが、少女はまるで小さな子供のように怯えていた。

「これでわかったでしょう?キミたちが護っていた十六夜姫という人間はいなかった。私が創り出した幻なんだよ」

自虐めいた笑みを浮かべて、少女は俯いた。裸の足が埃と土で少し汚れてしまっている。

「殺されるのが怖くて、だから黙っていたんですか?」
「そう……。誰だって命は惜しいじゃない?私は自分の命を護るために、キミたちを利用した」

久々知の質問に少女は俯いたままで答えた。震えている肩がの上で癖のある柔らかな髪が揺れている。
だが、次の久々知の言葉で少女は顔を上げた。

「でも、貴女は死にましたよね?」
「!」
「自分の胸を貫いて、死にましたよね?殺されたくなかったっていうのは死にたくなかったからなのに、貴女は自分で死んでみせた。それはどうしてですか?」
「そ、れは……」

自分の最期の瞬間を思い出す。
ギラっと輝く刃先を、自らの手で胸の真ん中へと導いた。
久々知は大きな瞳を少女にぶつけるように見つめている。

「貴女は、オレたちを護ろうと必死だったんじゃないですか……?」
「ち……ちが―――」
「アンタにとっては全く関係のない戦だったのに、十六夜という姫を演じていたじゃないか」
「私は……っ」
「姫様―――」
「違う!!」

少女は頭を振って雷蔵の言葉を否定する。薄茶色の大きな瞳には涙の膜が張っている。

「私は十六夜姫なんかじゃない。そんな……綺麗なお姫様なんかじゃ、ないよ………」

脳裏に浮かんでくる親友の死に顔が少女の心を引き裂くように痛めつける。
自分は許されてはいけない。
すると、竹谷が笑いながら少女の闇を一瞬にして掻き消した。





「オレたちにとっては、お前が姫だよ。お前以外の十六夜姫を、オレたちは知らない」





少女の瞳が大きく見開かれる。静かにゆっくりと見開かれて、頭が真っ白になっていくのを感じた。

「でも…………、私……」

心が揺さ振られる。けれども視界に入って来る彼らの姿は傷だらけで、特に久々知は腕を折られて今も添え木が取れない状態だ。
自分のせいで、自分のために、自分がいたから。
もし、自分がいなかったら、友人たちが傷つく必要も無かったはず。
そのとき、強い風が吹き荒れた。少女の身体が揺れる。叩きつけられるような風に4人はさっと身を低くしたが、少女は混乱していたため身体がふらっと傾いてしまった。
ここは城の屋根の上。ただでさえ傾いている場所で傾いてしまっては、バランスを失ってしまう。少女の身体が大きく傾き、腰から重力に従って投げだされていく。

「姫ッ!?」
「十六夜姫!?」
「姫様!?」
「姫サン!?」

少女が彼らの視界から消える手前にダン!と屋根瓦を蹴った。
少女は気持ちの悪い浮遊感を全身に纏わせながら下へ下へと落ちていく。

(私、ここで終わるのかな……)

そんな運命も仕方ない気がして、少女は自虐を込めた笑みを浮かべた。
すると、空と城の壁が見え、そして更には自分を追って飛んだ5年生たちが見えた。

「どうして……?!」

全員が腕を伸ばして少女の身体を掴んだ。少女の身体が紺色に包まれる形で落ちる。
落ちた先はこの城の中庭で1番大きな池だった。じゃぼんという激しい水柱が上がり、周りにいた衛兵たちは池の水を被って塗れてしまう。

「ぷはぁ!!」
「ふあっ!?」

池の底から最初に顔を出したのは雷蔵だった。その腕の中には今尚何が起きたのか良くわかっていない少女がポカンとしてしまっている。濡れた頬にぐしょぐしょになった髪が張り付いて酷いことになっていた。

(あれ?池に落ちたっていうこの光景、どこかで……)

少女が考え込んでい内に久々知、竹谷、三郎が同じように池から顔を出した。まるで温泉にでも浸かっているかのようなありさまだ。お互いに服は着ているけれど。

(お……怒ってるよね……?!)

自分の不注意で4人を巻き添えにしてしまったようなものだ。少女は恐る恐る声をかけようとしたとき、池から響いたのは大きな笑い声だった。

「あは、あははははは!!!!何だよこれ、皆してビショビショだな!」
「あはははは!この歳で池に落ちるなんて初めてだ…!お腹痛いよ、僕!!あはははは!」
「三郎!お前雷蔵の髷が取れかかってるぞ!!はははははっ!!」
「そう言う兵助こそ、結い紐が取れてワカメみたいになってるぞ!!わはははは!!」
「…………」

4人はお互いの濡れネズミ姿を見て指さしながら笑い合っている。

(池に落ちて笑っているなんて、どこにでもいる、普通の中学生みたい……)

少女の世界の14歳らしい無邪気な眩しい笑顔。その笑い声が全ての悩みを消していく。





少女は、ずっとこれが見たかったのだ。





少女の胸がすっと穏やかになっていくのを感じた。

「お前も一緒に笑おうぜ」
「え……?」

竹谷がスッと少女の前に手を出しだした。年下なのに、少女よりも一回り大きな手は肉刺が沢山出来ていた。

「そうですよ。一緒に笑いましょう」
「オレも、貴女の笑った顔が見たい」
「いつまでも難しいことを考えていたんじゃ、その可愛い顔が台無しだ」

次々に手を差しのべられて、少女は困惑した。
この手を、握り返しても良いのだろうか?
すると、久々知が勝気な微笑みを湛えてこう言った。





「貴女は『誰も傷つかないで、争わない日々がきっと来る』と言っておられましたね』」





その言葉は、




「『そんな綺麗事の通る世界が本当にあるなら、オレたちはそれを見てみたい』」





少女を闇から救い上げてくれた、





「『どんな姫様でも、僕たちは迎え入れます』」





奇跡の言葉。





「「「『だから、一緒に帰ろう!!』」」」





彼らの言葉に、少女は今度こそ涙を堪えることができなかった。
歪んだ視界の中に友人たちを収めながら、必死で笑顔を作る。上手には作れなかったけれど。
少女の瞳から一筋の涙が頬を伝い落ちた。





「『私も帰りたい』」





「『皆と一緒に夕ご飯を食べたり、遊んだりしたい』」





「今度は、っていう本当の名前で……」





「本当の、私の姿で……!!」





少女―――は、大切な友人たちと抱き合った。強く強く、今までの距離を埋めるように。







第十五夜 願いが叶うとき


2008.12.17 ~ 2009.04.04