深夜、月陰国の城内には素早く動く黒い点があった。4つの点は二手に分かれ、薄灯りの闇に溶け込む。
天井を這うように進んでいた久々知が、天井板の隙間から下の廊下の様子を窺う。廊下には誰の気配も感じられない。そう、城に侵入した直後からずっと人影を見かけないのである。
久々知と同じように下を覗いている竹谷が面倒臭そうに呟いた。
「あーもう!天井裏に入ると、オレの髪の毛たくさん埃が付くから嫌なんだよな……」
「良いじゃないか。天井裏が綺麗になって」
「何が悲しくて月陰城の天井裏を綺麗にしなくちゃいけないんだよ」
「ともかく、ここから降りるのは良く考えてからじゃないと無理だ」
「ああ、そうじゃないとヤバいからな」
夜に城内で人を見かけないのにはわけがある。それは、夜になるとこの城全体がからくり屋敷へと変貌するからなのだ。
月陰国は鬼の城と鬼が住まうとされ恐れられているが、中には秘密に感づいて侵入を試みる輩もいる。そのため、侵入してきた者を血祀りにするためわざと夜中には誰も出歩かないようにしている。誰もいないと油断したら最後、侵入者はからくりの餌食になるというわけだ。
からくり地獄については既に忍術学園で情報を得ていたので、2人は慎重に慎重を重ねて行動をしている。もしこの情報を得ていなければ、2人はもうとっくに死んでいたかもしれない。
「待ってろよ、姫……。絶対に助け出して、セキナントカっていう病気も治してやるからな」
竹谷からすると、病気うんぬんよりもここから救い出すことの方で頭がいっぱいらしい。陰湿な空気を好まない竹谷らしい考え方だ。
じりじりと天井を這い、久々知がまた下を隙間から覗き込んだその瞬間、突然重力が感じられなくなった。そして、嫌な浮遊感。気が付くと、ドスンと2人は廊下に落ちていた。下半身に激痛を覚える。
「痛〜〜ッ?!」
「何だ……?!」
直ぐに立ち上がって竹谷が天井を見上げれば、天井板がぱっくりと外れてしまっている。
「変だな。罠は全て回避していたはず……。手動のはずだから人がいなければ―――」
「おい、兵助。答えは目の前にあるみたいだぜ」
天井を眺めて原因を探っていたのだが、竹谷の言葉に廊下の方を見る。すると突き当たりに2人の人物が立っていた。
緑色の忍者服を纏い、口元を頭巾で覆い隠しているのは彼らの先輩。
「七松、小平太先輩……ッ」
「食満留三郎先輩……」
久々知は驚いたように、竹谷は少し笑って諦めたかのようにその名を呟く。
暗闇の中で小平太は拳を構え、食満は自分の得物を手にしているが、殺気どころか生気さえ感じない。まるで世を彷徨う亡霊のようだ。
月陰国側によってかけられた暗示は、まだ有効らしい。
「暗示にもよるけど、ずっとあの状態なんだろ?」
「あのままじゃ、先輩たち…………死ぬぞ」
かなり強力な暗示の場合、緊張状態を常に保って活動をする。恐らく操られている6年生たちはほとんど眠っていないはずだ。このまま動き続ければやがて身体が壊れてしまう。
久々知と竹谷は、手裏剣を投げようと懐へ手を忍ばせた。しかし、決して急所は狙わない。
「気絶させるしかなさそうだな」
「そうだな、あの人みたい―――にッ!!」
2人の後輩は覚悟を決め、古い廊下板をつま先で蹴った。
雷蔵は頭巾で覆っていた口元を晒すと、中庭の灯篭の下を手で触った。僅かだが、風を感じる。それにこの部分だけ土が新しい。
背後を見張っていた三郎を無言で手招き、灯篭の下を指さした。
「ここから風を感じる」
「この辺だけ忍者が配置されていたし、ここで間違いないだろう」
そう呟いた三郎と雷蔵の背後には、2人に襲いかかってきた忍者が倒れている。どれも当て身だが、朝日が昇るまで目覚めることはないだろう。
2人は重い灯篭を前に押す。するととても狭いが地下へ続いている石の階段が現れた。周りを気にしながら地下への入口へ入る。仲は人工的に作られた空洞が続いており、壁からは土の匂いが漂ってきた。
足音を殺しながら階段を下りて行くと、ついに目的の場所へ到達した。階段と同じ石の扉である。頻繁に出入りがあるのか、扉に汚れはほとんど無いようだ。
三郎は懐から先に盗み出しておいた鍵を使い、施錠を解く。重い石の扉が開くと、真っ暗で何も見えない。雷蔵は足元の行灯に気づいて火を灯した。柔らかいオレンジ色の光りに部屋の中がぼわっと浮き出る。そこには、今にも倒れそうなくらいに本や資料と思われるの巻物が詰められた本棚が並べられた。きっちりと隙間無く本が並ぶ本棚は奥の奥まで続いている。資料室と言うより、まるで一種の図書室だ。
「恐らく、月陰国が研究している病気や毒薬についての全てが集まっているはずだ」
雷蔵がいくつかを手に取って見ると、医学や毒薬のものばかり。中には日本語で書かれていない本まである。
「この中から赤眼病の治療法を調べ出すぞ」
「時間がかなり限られているから……。でも、諦めない。姫様のためにできることをしよう」
雷蔵の決意の先には友人の笑顔があった。
そのとき、雷蔵の持っていた行灯が突如光りを失った。見れば、人差し指ほどの穴が開けられており、また部屋が闇に包まれてしまう。しかし、2人の目は行灯に忍具を投げつけた者たちを捉えていた。闇に紛れる緑の装束は見間違えるはずがない。雷蔵と三郎は狭い部屋の中で構えを取る。
「中在家長次先輩、と……」
「立花仙蔵先輩、か」
心を持たない殺人兵器と化した2人の先輩。殺気を感じないというのはやっかいだ。
長次の得意武器と仙蔵の得意武器はその手になかった。
じりっと三郎が後ろへ下がる。
「この部屋は狭いからな」
「縄標も焙烙火矢もここでは使えない。本来の力よりも落ちているけど……」
縄標は勢いをつけて相手に投げるため、縄を回すだけのスペースが必要だ。そして焙烙火矢は貴重な本や資料を燃やしてしまうばかりか、狭い室内で使用すると逃げ場所が無くなる。
それだけ考えれば、この2人相手にも勝ち目は見えてくるかもしれない。けれども相手は忍術学園を背負っている最上級生なのだ。得意武器が使えないというだけで、そう簡単に倒されてくれはしないだろう。さらにこちらは先輩を傷つけたくないという気持ちもある。どちらにしても不利には変わりない。
びゅっと空間を裂く音がして、長次が苦無を振りかざした。雷蔵がそれを右手に握った苦無で受け止める。ギチギチと金属が擦れる音がし、長次の強い腕力に手が震えてしまう。
「く……っ!」
まともにこの一撃を受ければ致命傷は確実だろう。虚ろな瞳で的確に急所を狙って来る。
「雷蔵!!」
三郎が助けに向かおうとすると、いくつかの手裏剣が行く手を阻む。三郎は本棚の後ろへ隠れて様子を窺う。仙蔵は細かい動作を得意としており、手裏剣は三郎のいた場所の壁に突き刺さった。三郎の腕に赤い色が僅かに滲んでいる。
雷蔵がどうにか長次の苦無を振り払うと、後ろへ下がり距離を取る。自分を殺そうとしている相手から全く意志を感じない。それが何よりも恐ろしい。
(これが……学園長先生の言っていた、心を持たない刃なのか……)
変わり果ててしまった2人の先輩に悔しさが込み上げてくる。奥歯を噛みしめて冷静になろうと耐えた。
仙蔵が隠れている三郎の元へゆっくりと歩いて行く。雷蔵はそれを阻止しようとするが、気が付くと長次に胸元を掴まれていた。
「うっ?!」
雷蔵の身体が宙を舞い、背負い投げの形で倒される。受け身を取って衝撃を押さえたが、苦しい声が上がってしまった。掴まれている手をもう片方の手で捻るように返し、雷蔵は床に転がった。息が上がって心臓が破裂してしまいそうだ。先ほどまで自分がいた場所を見ると、鋭利な刃物が突き刺さっている。
膝をついたまま、雷蔵は長次との間合いを取る。同時に背中に背負っていた刀の柄に手をかけた。しかし、抜くか抜かないかは迷ってしまう。
「雷蔵!隠し通路を見つけた。この先で体勢を整えるぞ!」
「わかった!」
仙蔵から身を隠していた三郎の声に雷蔵が返事をする。その声に反応して長次も仙蔵も後を追いかけようとした。
雷蔵は煙玉を足元に投げて視界を真っ白に覆い隠す。突然のことに先輩2人は一瞬怯んだ。そこを見逃さず、雷蔵は三郎と共に本棚の森に隠されていた通路へ入った。
天井は低かったが、少しかがめば走れる。雷蔵と三郎は長く続いている通路を駆け上がった。オレンジ色の光りが見え、出口が近いことがわかる。背後から2つの足音が追って来るが、振り切る勢いで駆け抜けた。
通路を抜けると、そこはとても広いある部屋に出た。板で張られた床に高い天井。たくさんの蜀台に火が灯され、この場所だけ昼間のように明るい。闇に紛れて墨のように黒かった紺色の衣装が暖色に染まる。
「集会場か……?」
「その通りですよ」
遥か先に見える金色の襖がスッと開いた。そこには直垂を着た見目麗しい青年が微笑みを浮かべ立っている。真っ赤な瞳を見て、2人は懐から忍具を取り出して構えた。背後の隠し通路からは仙蔵と長次が追いついき、ひゅっと飛ぶように男の横へと移動した。今の彼らは男に仕える僕なのだ。
「あなたが月陰国の当主か?」
「如何にも。私が月陰を治めている十六夜の兄、新月丸です。ああ、あなた方のお友達が迷子になっていたので、お連れしましたよ」
新月丸がそう言うと、三郎の横にある襖が開いた。入ってきたのは細かい傷だらけの久々知と竹谷、そして2人を跪かせて両手を拘束している食満と小平太である。捕らえられた仲間の姿に雷蔵と三郎の表情が引きつった。
「兵助!ハチ!」
「すまん……、捕まっちまった……」
口元から血を流している竹谷は笑うと痛むらしく、顔を歪ませた。久々知は上座に立つ新月丸を睨んだ。
「お前……、オレたちがどこから侵入するのかわかっていたみたいだな」
「ええ、わかっていましたよ。私には全てわかっていました」
侵入した先には、必ず6年生たちが待っていた。ここ数日で決めた作戦が外部に漏れるとは考え難い。けれども新月丸は既に1つ2つ先のことを見抜いているかのようだ。
「先輩から受ける拳の味はいかがでしたか?まぁ……その様子だとたっぷり味わえたようですね」
「ちっ!」
久々知は口腔に溜まっていた血を吐き出す。床に赤が飛び散り、食満の拳の威力を物語っている。
「姫はどこだ!?姫を返せ!!」
竹谷は吠えるように新月丸に叫ぶ。新月丸は余裕の表情で、牙を覗かせながら言った。
「私が十六夜を奪ったとでもおっしゃるのですか?十六夜は私との約束を守るため、ここに来たのです。そうでしょう、十六夜?」
「「「!?」」」
新月丸がやって来た襖の向こうから、くの一に視線で拘束されているが姿を見せた。背後には伊作、文次郎が控えている。
「皆……っ!?」
「姫様!」
「十六夜姫!!」
はボロボロに傷ついている5年生たちを見て今にも泣きだしそうなくらい顔を歪めた。駆け寄ろうとするが、くの一がの腕を掴んでいてできない。
そして5年生たちは、の姿に目を見張る。手と足の甲まで浸食した蒼い痣がくっきりと浮かんでいる様子にがく然とした。鬼化が確実に進んでいる。限られた時間しかないというのに、今は敵に拘束されて身動きできない自分たちを恥じた。
「お友達が来てくれてとても嬉しいでしょう、十六夜?」
クスクス笑う新月丸の赤い目がの心に纏わりつく。
(皆が来てくれたって……これじゃあ……っ)
完全に身動きができない状態。むしろ、いつ殺されたっておかしくない。その状況を招いてしまったのは、自分。そして、新月丸を説得できるのも自分しかいない。
「お、にいさま……」
は震えた声で言った。新月丸はにっこりと微笑み、の傍へ寄った。優しく頬に触れるその手は、氷のように冷たかった。
「どうしたのです?何か言いたいことがあるのですか?」
「皆を……、助けてください」
「なッ、何言ってるんだよ姫!」
「助けてください!お願いします!!お願いします……!!」
竹谷の声を塗り潰すようには叫んだ。の最優先は、常に非暴力。そのためだったら何でもする。
新月丸は、震える妹を気遣う兄の表情を見せる。
「何を言っているのです、十六夜。可愛い十六夜のためならどんな事だってしますよ。しかし、あの子たちを学園に帰すこともできますが……、あなたのお友達は帰りたくないみたいですよ?」
新月丸が5年生たちに目を向けると、どれもギラギラと殺気だっているのが伝わってくる。少しでも隙を見せれば、新月丸に襲いかかるのは間違いない。これほどの強い殺気を複数浴びながらも、新月丸はどこ吹く風といったところだ。
「おいたをする悪い子には、お仕置きしなくてはなりませんし……ねぇ?」
「ひッ?!」
新月丸はニヤァと不気味に笑う。口元から鋭い牙が見え、真っ赤な瞳は初めて殺気に満ちた。は恐ろしい鬼の表情に顔が引き攣ってしまう。
(このままだと、本当に皆が殺される!!)
は心を決めて叫んだ。
「皆、お願いだから帰って!」
「嫌です!ここに姫様を置いて帰るわけにはいきません」
「病気だって治してみせる!まだ時間が残されているなら、どうにか―――」
「もう、遅いんだよッ!!」
は首を激しく振って否定した。黒髪が左右に踊るのが視界に入る。悲痛な叫び声を聞いて、4人は目を見開いた。
「いったい……どういうことですか?」
久々知が恐る恐る問いかけると、は俯いたまま震えた。
「わ、たし……完全に鬼化するのを早める薬……を、飲まされたんだ……」
「な………」
「何だって……?!」
「だから……さ、何もかも遅いの。朝になる前には、私は私じゃなくなるんだよ。完全に鬼になったら、頭がおかしくなって……皆のこと殺しちゃうかもしれない。だから、帰って……帰ってください。お願いします」
完全に鬼化してしまうと、人間とは思えないほど強靭な肉体を得ることができる。その代償として認識力の低迷と理性、精神の崩壊が起こる。そうなれば、愛する友人たちを引き裂いていまいかねないのだ。
竹谷は新月丸を罵倒した。
「お前、妹にそんなもの飲ませて何をしようってんだ?!」
「私はただ、本来のあるべき姿にしてあげようとしただけです。鬼の血を受け継ぐ者として、鬼を発症させることは至極当然のことなんですよ。私たち兄妹はもううんざりしていたんです。諸外国から恐れられるのと同じくらい探られることは、ね」
「そ……、そんなことのために姫を……ッ!」
「そんなこと?こんなに素晴らしい計画なのに、そんなこととは酷いですね」
「このッ―――」
「もう頑張らなくて良いから!」
抵抗しようとする竹谷には顔を上げた。
「嫌だよ……、皆が死んだりしたら嫌……」
青ざめたの赤い目は涙の膜で滲んでいた。
十六夜でも何でもない別人の自分が、なぜここにいるのだろう?なぜ自分は、十六夜ではないのだろう?
負の感情が渦巻いて、どうしようもなくなる。押し潰されて、そのままいなくなってしまえば良いとさえ思った。
けれど、
「十六夜姫、諦めないでください」
それを許さない者がいた。
「あなたは『誰も傷つかないで、争わない日々がきっと来る』と言っておられましたね」
「そんな綺麗事の通る世界が本当にあるなら、オレたちはそれを見てみたい!」
「どんな姫様でも、僕たちは迎え入れます!」
「「「
だから、一緒に帰ろう!!」」」
は4人の言葉に心が打ち震えた。どんな不安も闇も吹き飛ばしてしまうその魔法の言葉に、は笑顔を取り戻した。青白かった肌は一気に赤みを帯びる。
首の後ろに手を回し、少し照れて困ったように言った。
「私も帰りたい。皆と一緒に夕ご飯を食べたり、遊んだりしたい……!」
そんなささやかなことで良い。本当の幸せと平和はここから生まれてくる。
「それじゃ、帰ろうか」
すると、ドッという低い音が部屋に響いた。そして、同時に今し方まで立っていたはずの仙蔵が前のめりに力無く倒れたのである。そして、その背後には当て身をした張本人である伊作がいた。くの一は伊作が乱心したと思い苦無を構えようとしたが、伊作がすかさずこれを苦無で弾く。弾かれて宙を舞う苦無は畳に突き刺さった。同時に懐へはいりこんだ伊作が拳を鳩尾に埋めると、くの一は大きく目を見開いて崩れ落ちた。
何が起きたのかわからず、は伊作を見た。伊作はニッと悪戯っぽい笑みを見せると、顔の皮を剥いで見せる。伊作の行動に驚き焦るだったが、皮の下を見て笑顔の花が咲いた。
「さっ、三郎くん!!それじゃ、今まで私と一緒にいたのは……」
「そ、オレだよ姫サン」
「ええええ?!じゃあ、あっちの人は……?」
今までが三郎だと思っていた人物が、雷蔵の隣で同じように皮を剥ぐ。するとその下が伊作の苦笑いが出てきた。
「暗示を解く方法は相手を気絶させることだったんですけれど、伊作先輩は城の堀に落っこちてたんです。それを僕たちが見つけて、協力してもらったというわけなんです」
「忍者でも堀に落ちたりするんだね……」
「先輩は不運だからな……」
「あはは……。だけど、僕の不運が幸運を呼んだと言ってもおかしくないだろ?」
忍術学園一の不運男である伊作だが、今回ばかりは伊作が逆転の好機を与えたと見ておかしくない。
三郎は不敵に笑いながら新月丸を見た。微動だにしない新月丸は事の成り行きを見守っている。
「そういうわけで、あのとき姫サンに飲ませた薬も、ただの米粉を丸めただけのニセモノだ。姫サンを簡単に鬼化させるわけにはいかないんだよ!」
「私、鬼にならずに済むんだ……!!」
は歓喜の悲鳴に近い声で叫ぶ。
伊作という仲間も増え、の早期鬼化を阻止できたということが心に大きなゆとりを与えた。まだ負傷した久々知と竹谷が捕まったままであるが、6年生は暗示をかけたくの一が倒れたため、再び暗示をかけられることもなくなった。
このまま一気に逆転できる気がして胸が躍る。
(ん?だけど、牢屋で私何か変なこと口走ったりしてなかったかな……?)
「鉢屋、仙蔵が起きれば焙烙火矢の爆撃で他の6年生も気絶させられる!僕と雷蔵で留三郎と小平太はどうにかするから、十六夜様を頼むよ!」
伊作と雷蔵は久々知と竹谷を捕らえている2人に向き直った。そして三郎はの手を取ろうと伸ばす。だが、その手は空を掴むだけ。は、新月丸の腕の中に閉じ込められてしまった。
「離してっ!」
「姫サンを返してもらおう。アンタだって、不利なことはわかっているよな?」
「ふふふ……」
「何がおかしい?」
ずっと黙っていた新月丸が、ここで控え目に笑い出した。不気味に赤い目を細めるその姿に、三郎もぞっとする。
「先ほども言いましたよね。『私には全てわかっていた』と。コレがどういう意味なのか、十六夜……あなたにはわかるでしょう?」
「……そんな……」
の脳裏に嫌な予感が走る。
「十六夜と同じ力を、私も数年前に開花させたのです。しかし、絶対にそれは回避出来ない……。ならばあえて受け入れましょう、この未来を」
「どういう意味だ?」
三郎が問いかけると、新月丸はの背中を強く押した。前に数歩歩いて止まる。目の前にあるのは、臨戦態勢にある仲間たちの姿。
新月丸はの背後から投げかけるように言った。
「最近の研究で、赤眼病を早める薬を調合することに成功しました。そして、同時にもう1つ……赤眼病の進行を早める方法を発見したのです」
「え……?」
「それは、患者に対して過度な精神的苦痛を与える事」
ま さ か 、
「
お友達に協力してもらいましょうね、十六夜」
「やめ―――」
の言葉が言い終える前に、久々知の左腕に激痛が走った。
食満に握られていた腕の骨が割れ、熱湯をかけられたかのような激痛が稲妻のように走る。
「ぎゃ、ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
あまりに突然の出来事だったため、喉が裂けそうなくらい久々知は叫んだ。痛みに全身が硬直し、何も考えられなくなってしまう。
食満には後輩の苦痛な叫び声が聞こえていないのか、眉一つ動かす気配がない。そしてもう一方の腕にまで手をかける。
「兵助!?」
隣にいた竹谷が隣を見た瞬間、長次が縄標を勢いをつけて投げた。真っ直ぐに飛ぶ鋭利な刃先は、身動きできない竹谷では避けることができない。
「八左ヱ門!!」
雷蔵が竹谷を庇うため駆け出し、両手を広げた。竹谷に雷蔵の影が下りて視界が紺色に染まる。そして、ドッという音と共に雷蔵の背中が揺れるのを見た。
「ぐぁあ……っ!!」
雷蔵は一瞬衝撃に堪えたものの、苦痛に歪んだ表情はそのまま畳へと崩れ落ちた。
辺りが、しんと静まる。
は声を殺し歯を喰いしばって苦痛に耐える久々知と、雷蔵の腹部に深く刺さった刃物を見た。じわりと滲み出てくる真っ赤な血を見て、は頭が真っ白になるのを感じた。
ドクン
「ぁ」
ドクン
ブ
チ
ッ
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